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青丘文庫研究会月報<232号> 2009年5月1日

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

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●青丘文庫研究会のご案内●

 ■第312回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

 5月10日(日)午後3時

 「ニューカマー韓国人女性のライフヒストリー

           −フィリピン・日本−」  李裕淑

 ■第265回朝鮮近現代史研究会

 5月10日(日)午後1時

 「朝鮮開港期における中国人労働者問題

   −広梁湾塩田築造工事の苦力を中心に−」李正煕

 ※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫  TEL 078-371-3351

 

<巻頭エッセー>

済州島の日本軍軍事施設への関心の高まり  塚ア昌之

 

 私が最初に済州島を訪れ、巨大な地下壕をはじめ、数多くの日本軍が構築した軍事施設が残っていることに気がついたのは2001年のことであった。韓国の人気ドラマ「大長今」(邦題「チャングムの誓い」)の有名なシーンに使われた海岸の「洞窟」も日本軍が海上特攻兵器・震洋のために掘った坑道陣地を利用したものである。帰国後、東京の防衛研究所などで資料を発掘したところ、済州島では沖縄戦の日本軍を上回る兵力が集められ、島中いたるところで坑道陣地が掘削されていたことが判明した。2003年に「済州島における日本軍の『本土決戦準備』」と題した論文を発表した。

 論文は翌2004年に済州島で翻訳され、2005年には済州大学校と漢拏日報の共同調査チームが結成された。2006年の夏には、飛田雄一さん・高村竜平さんたちと「朝鮮人・中国人強制連行・強制労働を考える全国交流集会in済州道」も開催した。この集会には青丘文庫の研究会メンバーも多く参加してくれた。

 2004年以来、何回も調査のために済州島を訪れた。漢拏日報が度々、日本軍施設の特集記事を組んでくれたこともあり、戦争遺跡への関心が年々高まり、物置やごみ捨て場のようだった飛行機の掩体壕や海岸の特攻陣地などは行くたびにきれいになっていっている。

 現在、日本軍施設の13か所が国の文化財指定となり、その場所に銘板も設置されている。特に南西部のアルトル飛行場跡付近には各種の軍事遺跡が多く集まっているが、周辺整備が進められ、例えば、遺跡の一つの地下バンカーなどは入り口まで下りる階段・手すりを設置した上、地下室内部には照明までつけられた。それらの結果、戦跡見学の人々も度々見かけるようになった。

 また、西部のカマオルムには、第111師団243連隊の司令部壕とされた複雑な形をした約2qに及ぶ地下坑道が残っているが、そのうちの340mの坑道を見学できるよう整備した私設の平和博物館が開館している。開館当時は経営を心配したものだが、昨年1年間で、46010万人の修学旅行生を含む23万人が訪れた。

 さらに、今年20091月には、韓国KBS放送が土曜日の午後8時から9時というゴールデンタイムに2週間続けて、済州島の軍事施設の特集番組を放映した。ドキュメンタリー番組としては高い7%弱という視聴率を獲得したそうである。平和博物館ではさらに今年は30万人の見学客が見込まれている。

 その一方、日本ではマンガン鉱山の坑道を利用して、朝鮮人の苦難の労働を展示していた私設の丹波マンガン記念館が李龍植館長の頑張りにもかかわらず、入館者が増えることなく、残念ながら本年の531日をもって閉館することとなった。

 日韓の歴史認識の差がそのまま表れているといえよう。

 

第262回朝鮮近現代史研究会(2008.11.9

 朝鮮総督秘書官・守屋栄夫の日記に見る「文化政治」 松田利彦

 

 本報告では、朝鮮総督府秘書課長(191922)・同庶務部長(24)を歴任した守屋栄夫の日記を紹介しながら、植民地朝鮮における「文化政治」が、どのような人脈や政治的力学関係のなかで動いていたかを検討した。

 守屋の日本人人脈は、水野錬太郎政務総監をはじめとする内務省出身総督府官僚を中心に形成され、それ以外にも総督府生え抜き官僚・本国内務官僚・言論人・同郷者などのなかにもネットワークが張り巡らされていた。守屋の秘書課長としての職務のなかで最も重要だった総督府高級官僚の人事においても、こうした人脈は活用された。守屋は、すでに秘書官抜擢の直後から内務省時代の人脈を活かしつつ大量の内務官僚を選抜し、31運動後における総督府新幹部の陣容を整えた。朝鮮赴任後も、本府局長・事務官から地方官まで幅広い人事に関与し、総督府内の異動のみならず本国内務省からも人材を導入した。秘書官としては、このほか各種会議における総督・政務総監の訓示の作成や機密費の管理などの職務に携わった。

 守屋は、朝鮮人のなかにも相当な人脈をつくった。朝鮮人への下等視や独立運動への拒否感を基底にもちながらも、言動においてはそのような意識を露出させないという二面的な姿勢をとった守屋は、韓国併合以前から親日派として高官職にあった門閥出身の高級官僚、併合後に台頭した「新世代」の親日派朝鮮人などと交流をもった。特に後者の場合、国民協会との関係に見られるように、双方が互いに利用価値を見いだし頻繁に接触した。なお、民族運動関係者は右派民族主義系統の人士と若干の接触が確認されるにとどまった。

 さて、守屋の総督府官僚としての転機となったのは、19226月の政務総監交代である。水野に代わり政務総監となった有吉忠一に対しては、次年度予算編成をめぐって有吉への不満を募らせた。総督府の人事異動に関しても、有吉より水野前政務総監との意思疎通を重視した。このような守屋の行動は、1920年代初期の総督府の内務省系高級官僚が水野政務総監との深い関係で動いていたこと、水野の辞任によりそのような人間関係が崩れたことで総督府官僚機構が円滑に機能しなくなった面があったことを示している。

 ただし、守屋が192210月には庶務部長(当初は事務取扱)となり、さらに23年のほぼ一年間は海外視察に赴いていたことにより、こうした政務総監との不和は長くは続かなかった。守屋の海外視察からの帰国後、19246月、有吉政務総監は辞意を表明するが、このとき守屋は後任候補に同郷の菅原通敬を擁立した。本国の加藤高明内閣側は憲政会系人士を推したのに対し、守屋をはじめとする総督府側は、政党色を排除するために大蔵官僚出身の菅原を推したのである。

 なお、守屋栄夫の日記を含む関係史料は現在、国文学研究資料館で整理中であり、近く公開される予定である。

【※松田さんの報告は昨年中に原稿をいただいていましたが、編集部のミスで掲載が遅くなりました。申し訳ありませんでした。

 

263回朝鮮近現代史研究会(2009.3.8)

中央アジアの朝鮮人−強制移住から70年、その歴史と現在−

                               ゲルマン・キムさん

 

 3月の青丘文庫研究会は、神戸学生青年センター、青丘文庫研究会、コリアンマイノリティ研究会が共催でカザフ国立大学教授のゲルマン・キムさんをお招きして講演会を開催しました。キムさんは、北海道大学スラブ研究所に客員教授として来日中で札幌から来てくださいました。1991年にも来日されたことがあり、そのときはむくげの会(事務局:学生センター内、http://ksyc.jp/mukuge/)で講演会を開いたり、ウトロにご案内して交流したりしました。

 キムさんは、1937年、ソ連沿海州に在住していた約20万人の朝鮮人が中央アジアに強制移住させられた歴史の研究者として知られています。日本の侵略戦争が激しさを増していた時代、朝鮮人が日本のスパイ活動をすると疑われたのです。

 キムさんは、語学に長けた方です。講演しやすい順序としては、@ロシア語Aドイツ語B英語D朝鮮語だそうですが、今回は、柏崎千佳子さんに英語で通訳していただきました。ありがとうございました。

 キムさんの講演は、よく準備されたパワーポイントを使ったとても分かりやすく興味深いものでした。いつものように神戸駅前で開かれる「二次会」も大いにもりあがりました。

 【写真】ゲルマン・キムさん講演会&うちあげ<略>

 

【今後の研究会の予定】

 6月14日、在日(小野容照)、近現代史(梶居佳広)、7月12日(日)、在日(黒川伊織)、近現代史(未定)。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。 

【月報の巻頭エッセーの予定】

 6月号以降は、土井浩嗣、中川健一、玄善允、松田利彦、三宅美千子、吉川絢子、李景a。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

【編集後記】

           ゴールデンウイークをどのように過ごされたでしょうか。ゴールデンウイークのために?月報の発行が遅くなりました。

           日韓合同の在日研究会を2年に一度程度、日本と韓国で開いています。今夏、神戸で開催します。7月24日(金)〜25日(土)、会場は神戸学生青年センターです。25日(土)〜26日(日)に同会場で強制動員真相究明ネットワークの「名簿問題」をテーマとしたシンポジュウムが開かれます。このシンポジュウムに韓国のメンバーが参加されますので、その前日から開催することにしました。詳細は、次号の月報などで発表します。ふるってご参加ください。 飛田雄一 hida@ksyc.jp

 

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