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青丘文庫研究会月報<210号> 2007年1月1日

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

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     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。

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 新年あけましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いします。

      朝鮮近現代史研究会代表 水野直樹

      在日朝鮮人運動史研究会関西部会代表 飛田雄一

※写真は、

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●青丘文庫研究会のご案内●

■第246回朝鮮近現代史研究会

1月14日(日)午後1時〜3時

 ハワイ「梶山コレクション」について 金慶海

■第288回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

1月14日(日)午後3時〜5時

 解放後の民族教育の記録映画の上映とお話 高仁鳳

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

  神戸市中央区楠町7-2-1 TEL 078-371-3351

  (地下鉄大倉山駅下車すぐ、JR神戸駅北10)

【今後の研究会の予定】

 2月の研究会は、2月11日、在日・松原薫さん、近現代史・河原典史さんの予定でしたが、当日、図書館が休館のために、日程を変更します。2月10日(土)または4月15日(日)となります。おって連絡いたします3月11日の研究会は、予定どおり、在日・高野昭雄さん、近現代史・李景aさんとなっています・。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

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287回在日朝鮮人運動史研究会(20061223)

解放後の在日朝鮮人運動と朝鮮史研究―50年代を中心に―

  宇野田 尚哉(神戸大学)

はじめに

 解放後の在日朝鮮人運動についての研究は,これまで,政治闘争・経済闘争・教育闘争などを検討の中心に据えるかたちで進められてきた.それに対して,私は,〈文化運動〉という観点から,解放後の在日朝鮮人運動を捉え直してみたいと考えている.

 私がそのように考える理由は,大まかに言って2つある.(1)当時の運動の担い手たちの歴史的経験を(のちに与えられた〈政治〉的評価を離れて)跡づけなおしその困難さにおいて復元するには,〈政治〉の論理には還元されえない歴史的経験の多様性や複雑性を把握する必要があるが,そのような分析を行いうる局面の1つとして〈文化〉を想定することができるのではないか.また,(2)〈政治〉と〈文化〉が深く相互に浸透しあっていたという点こそが1950年代という時代の特徴であったとするならば,〈文化〉の側からの再検討なくしては50年代についての理解は深まらないのではないか.

 以上のような立場から,50年代の左派の〈文化運動〉,なかでもとくに大きな影響力をもった〈文学〉的創作と〈歴史〉研究に検討を加えることが,当面の私の課題である.

1.在日朝鮮人文化団体とその連合組織―50年代前半を中心に―

 解放後に叢生したさまざまな文化的動きは,朝連の強制解散を頂点とする弾圧によりいったん逼塞させられてしまった.その後さまざまな文化的動きが復活してくるのは1951年末以後のことであり,その中心となったのは大阪朝鮮人文化協会(195110月結成)とその雑誌『朝鮮評論』(195112月創刊)であった.

 195212月の民戦三全大会を経て,1953年は文化界結集の年となる.実際,1953年には各地で在日朝鮮人の詩サークル/サークル詩誌が叢生し,在日朝鮮文学会も再建されるなど,顕著な動きが見られる.そのような動きの核となったのは,前述の大阪朝鮮人文化協会/『朝鮮評論』に加えて,大阪朝鮮詩人集団とその詩誌『ヂンダレ』であった.このような動きは,19545月の在日朝鮮文化団体総連盟(文団連)の結成に帰結する.

 ところで,文団連結成に帰結する在日朝鮮人左派のこのような文化運動は,一方では日本共産党の文化闘争方針を忠実に踏まえたものでもあり,日本人の左翼文化運動と強く連動していた.そのことがもたらした矛盾の深刻さは,在日朝鮮文学会の再建大会で「金達寿許南麒らの日本語による作品活動」は「日本の国民文学の一環」であると確認されていることからもうかがうことができる(『人民文学』第44号参照).

2.『ヂンダレ』と『ヂンダレ』批判

*大阪朝鮮詩人集団(19532月結成,金時鐘ら)とその詩誌『ヂンダレ』(19532月〜195810)および『ヂンダレ』批判については,かつて本研究会で詳しく報告したことがあるので,ここでは省略する.

3.『朝鮮の歴史』と朝鮮研究所批判

 解放後に在日朝鮮人運動を担った知識人たちは,日本の敗戦/朝鮮の解放以後も依然として支配的であった他律性史観・停滞史観を克服しうるような朝鮮史を独力で書く必要に迫られた.そのような朝鮮史叙述の早い段階のものとして,金鐘鳴「歴史講座:朝鮮近代史」(『朝鮮評論』第2357号,1952259月・534月)を挙げることができるが,この論説については,社会構成体史の立場に立つことによって従来の朝鮮史認識の問題点を克服しようとしているけれども,一方で新たな停滞論(アジア的停滞性論)に陥ってしまっているという,重大な難点を指摘することができる.

 そういう意味では,19577月に刊行された朴慶植・姜在彦『朝鮮の歴史』(三一新書)は,朝鮮歴史学界の動向を踏まえつつ植民地支配の遺制としての他律性史観・停滞史観を克服しようとした地道な知的努力の結晶として,この時期の在日朝鮮人歴史家の朝鮮史叙述のひとつの到達点であるといえる.

 ところが,民戦から総連への路線転換に際し『朝鮮の歴史』の主要な書き手が「後覚派」として批判され彼らの拠る朝鮮研究所が「後覚派」の拠点とみなされたこと,また,当時共和国の歴史学界では国内派の粛清を経て『朝鮮民族解放闘争史』の書き直しが進行しつつあり『朝鮮の歴史』とのあいだに齟齬が生じつつあったこと,などが重なり,『朝鮮の歴史』は共和国の権威ある歴史家から批判を受けることになる.金錫亨(朝鮮民主主義人民共和国科学院歴史研究所所長)の「朴慶植・姜在彦著『朝鮮の歴史』について」は,以上のような文脈において,朝鮮研究所とは対立関係にあった朝鮮問題研究所の雑誌(『朝鮮問題研究』)に掲載されたものであった(第21号,19584月).

*研究会当日は,朝鮮史研究の問題のみならず,在日朝鮮人史研究の問題にも言及したが,紙幅の都合上,ここでは割愛する.

おわりに

 解放後の在日朝鮮人運動を〈文化運動〉という観点から捉え直した場合,1951年末の〈文化運動〉の再興から55年の路線転換とそれにともなう軋轢をへて諸々の論争が終息していく50年代末までをひとつの時期と捉えることができる.そして,この時期の〈文化運動〉には,〈文学〉的創作にも〈歴史〉研究にも共通する,ひとつのパターンを見出すことができる.すなわち,朝鮮戦争期の困難を極めた時期に現場の活動家の地道な努力によって積み重ねられてきた「成果」が,戦後に共和国との連絡が回復すると,共和国によって否定されていく,というパターンである.朝鮮戦争期の運動が深刻な矛盾を抱え込んでいたことは上述の通りであるが,しかし,後世からの〈政治〉的評価を基準にして当該期の歴史的経験を裁断するのは歴史研究としてはあまりにも非歴史的である.私の関心は,朝鮮戦争期という困難を極めた時期に朝鮮戦争を止めるという巨大な目的に向けて自己投企せざるをえなかった当時の知識人活動家の歴史的経験を,その困難さと複雑さにおいて跡づけなおすことにある.近年ようやく冷戦期の封印をとかれつつあるこの問題への自分なりのアプローチの試みとして行ったのが,今回の報告であった.

 なお,研究会当日には,姜在彦先生と梁永厚先生から,このうえなく貴重なコメントを賜ることができた.この拙文が〈生きられた〉50年代への想像力を幾分かでも持ちえているとするなら,それはもっぱら二先生のおかげである.記して感謝の意を表したい.

 

民主化運動記念事業会(韓国)発行『済州四・三』(2006.10発行)

希望者に差し上げます。1頁の郵便振替に送料分300円をお送りください。

 

【月報の巻頭エッセーの予定】

 2月号以降は、山地久美子、伊地知紀子、稲継靖之、宇野田尚哉、金誠、佐藤典子、佐野通夫、田部美智雄、張允植。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

【編集後記】

           みなさん、2007年をどのようにお迎えになられたでしょうか。遅くなりましたが、今年最初の月報をお送りします。

           昨年12月の研究会には久しぶりに姜在彦先生にお話をしていただきました。そして記念写真をしましたので、本号に掲載いたしました。終了後の忘年会も盛り上がりました。

           飯沼二郎先生のご遺族から朝鮮関係の本が青丘文庫に寄贈されました。適宜整理されて文庫に入れられます。ご期待ください。

           月報のメールニュース版は無料です。希望者は飛田hida@ksyc.jpまでお申し込みください。暖冬とはいえ寒い日が続きます。健康にご留意ください。本年もよろしくお願いします。                         飛田雄一 hida@ksyc.jp

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