青丘文庫月報・140号・99年7月1日

青丘文庫研究会のご案内

第180回 朝鮮民族運動史研究会

1999年7月18日(日)午後3時

報告者 森川 展昭

テーマ 「1950年代後半期の延辺での民族整風運動について」

 

第216回 在日朝鮮人運動史研究会会

7月18日(日)午後1時

報告者 金 英 達

テーマ「在日朝鮮人の通称名の歴史」

 

※会場はいずれも青丘文庫(神戸市立

中央図書館内、地図参照)

 

 

巻頭エッセイ

山菜所感 金森 襄作

 

春の山菜摘みの時節になると、7〜8年前、京都の大原野で関西部会の十数名で、山菜採りと焼肉で一日をすごしたことが思い出される(それについては、以前書いた)。崖からすべりながらも子どものようにはしゃぎ、「うど」採りに熱中していた朴慶植先生や、にこにこ笑顔の韓皙曦社長の姿が目に浮かんで離れない。

山村育ちの私に、本当の山菜の味を教えてくれたのは韓国留学の時であり、帰国後本格的な趣味となって今日にいたっているのであるが、その間、幾度か韓国を訪れた。ただ、短期間のソウル中心でゆっくり田舎に行く機会はなかった。三月初め、職場の仲間が韓国を案内しろとのこと、2泊3日のおきまりのソウル、水原、利川を案内した。

正直いって、驚きの連続だった。近代化で韓国の田舎の変貌のさまは、十分に承知のはずであったにもかかわらず、30年前あの草屋根の小さな村に高層アパートや大学が建つとは、まさに「浦島太郎」の心境であった。考えてみれば「十年で山河も変わる」のが世の常なのに、30年前と比較すること自体、無謀なことだといわざるをえない。しかし、十年前の水原近くには確か多くのビニールハウスが見られたはずだが、今回は水原にも利川にもほとんどなく、何個かの残骸が見られるだけだった。運転手にわけをきくと、第一に水質汚染で水がつかえないこと、第二に農業をする中年層や若者がいなくなったためだとの答えである。かの国でも日本同様、近代化の過程で農業は切り捨てられ続けてきたのであった。それのみか、かくして生まれた近代的若者の中には、「キムチ」まで食べない者が増えつつあるという(臭うから)。この状況下にあって、淡い太陽の下、野原に群がった韓国の山菜摘みは、遠い昔の思い出の光景と化してしまって当然だともいえよう。

とはいえ、このような近代化が本当に人々の心を豊かにし、幸せをもたらしてきたのか? 私は根源的な疑問を抱いている。それらの複雑な思いにひたりながら、呆然と利川の光景を車中からながめていると、ガラス窓に泥んこになって「うど」を採っている朴慶植先生の姿がすうっと映った。

 

第179回 朝鮮民族運動史研究会(5月9日)

「朝鮮王公族について」 金 英達

 1910年の日本による「韓国併合」により、500年を超えて続いた李氏朝鮮王朝は滅亡した。韓国併合条約の文面は、まさに朝鮮国王が日本天皇に国を売り渡すものであった。そして、その見返りとして、第26代国王=高宗、第27代国王=純宗、皇太子=李垠らの李王家の一族は、日本の皇族待遇の特権的地位である「王族」あるいは「公族」の身分が与えられた。また、一部の旧大韓帝国の重臣らは、併合に功績があったとして「朝鮮貴族」の身分を与えられた。朝鮮民衆にとっては、このような「王公族」「朝鮮貴族」とは、すなわち“売国奴”のレッテルにほかならなかったのである。

 これまで、朝鮮王公族については、親日派売国奴の研究は忌避されたのか、後回しにされたのか、まとまった歴史的研究はみられない。言わば、空白部分である。そこで、今後の「王公族」研究の基礎づくりを目的として、次のような課題設定をしてみた。

 1 王公族とは何か(韓国併合と王公族制度の成立)

 2 誰が王公族であったか(王族・公族の人的系譜)

 3 王公族の法的地位(「王公家軌範」と「王公族譜規程」)

 4 日本政府の王公族政策と朝鮮民衆の対応

 5 朝鮮解放と王公族制度の消滅(元王公族の法的地位の変転)

 今回の研究報告では、とりあえず、(1)王公族制度の成立、(2)王族・公族の人的系譜、について整理してみた。しかし、若干まだ不明なところが残っている。

 そして、(A)地域籍による法的地位の差別化と(B)栄典制度(爵位、位階、勲章)による序列化の二つの面から、天皇制国家であり植民地国家である大日本帝国の国民の階層的構造を明らかにして、そのなかで王公族および朝鮮貴族がどのように位置づけられていたかを考察してみた。

まったくの初歩的な作業ではあるが、今後、資料を系統的に収集整理して、朝鮮植民地支配のなかの「王公族」の歴史的研究を進めていきたい。なお、最初の論稿として、金英達「朝鮮王公族の法的地位について」『青丘学術論集』(財団法人韓国文化研究振興財団)第14集(1999年3月)を発表したので、意見・批判をいただきたく思っている。

 

第214回 在日朝鮮人運動史研究会(3月14日)

「朝鮮人の内地渡航管理政策について−1910年代を中心に」

福井 譲

韓国併合以後,朝鮮人の内地在留数は急激に増加していく.内務省警保局の統計を基にした田村紀之氏の推計によれば1910年当時の2600人が13年では1万人,17年には2万人を超え,23年には10万人を突破している.もちろんこれは内地への渡航者が増加したことに応じたものだが,こうした傾向は従来,併合に伴う政策の転換と,植民地統治の影響によるものと理解されてきた.つまり併合後,朝鮮人の「日本人」化に伴い勅令第352号(1899年)の適応外とされたことと,「土地調査事業」を始めとする一連の植民地統治政策の影響による朝鮮農民の貧困化,重ねて安価な労働者を求める内地企業による朝鮮人労働者の雇用増加,というものである.もちろん最近の研究によって,内務省統計の問題性と併合以前での多数の朝鮮人労働者の存在が指摘されている.しかしながら同時に,併合以後本来ならば「帝国内での移動」である内地渡航に対し,当局側が何らかの形で朝鮮人への対策を講じていたという点も考察する必要があろう.そうした問題意識から,今回は併合直後の10年代において朝鮮人に対する渡航管理政策が,総督府・内務省双方によってどのように展開されたかを考察したものである.

総督府の成立直後,官制改革によって朝鮮人に対する「労働者取締」がその業務の中に含められていた.警察は朝鮮半島内外を移動する内地人・外国人・朝鮮人を調査するが,前二者に比べ朝鮮人への調査は年1回でしかなく,この段階では大まかな動向把握ということができる.これに対し内務省では,併合直前から「渡来韓国人ノ取締」を立案しており,ここにおいて既に総督府とは異なる方向性を持っていた.それは同時期の内務省が社会主義運動に敏感であり,その対策を強化しつつあったことと深く関わっている.そうした状況の下,朝鮮人が内地へ渡航する背景には,内地・朝鮮双方での朝鮮人賃金および内地での内地人・朝鮮人間の賃金格差が大きな要因として作用したことが指摘できよう.

13年になり,総督府は具体的に「労働者募集取締」の対策を採り始める.その背景は,その頃から内地企業が不景気を理由として,低賃金の朝鮮人労働者を多数雇用し始めることが関わってくる.それに対し内務省側は,社会主義者対策を強化していく中で「朝鮮人対策」を次第に明確化していき,その強化に努めていく.そして18年,総督府はそれまで制定した通牒類を取りまとめた「労働者募集取締規則」を制定することとなる.

「労働者募集取締規則」の内容とその成立背景を検討してみると,その制定には,第一次大戦による内地での景気停滞と失業者増加の可能性,満州地方へ移住した朝鮮人の排日運動の増加が考えられる.特に後者に関しては,ロシア革命と社会主義運動の内地への波及防止という観点も関係しているのではないだろうか.いずれにせよ,さまざまな制限事項が加えられながらも総督府側の場合,「規則」の対象はあくまでも朝鮮人を雇用しようとする企業にあった.これは内務省が朝鮮人を直接取締の対象としていたのとは大きく異なる点である.同時に,それは10年代の渡航管理政策の特徴ともいえるものであった.

総督府は段階的に政策を形成していったのに対し,内務省が一貫して治安維持の観点から政策を形成していったのは注目すべき点である.しかし同時に,課題はまだ残されたままである.渡航管理政策は総督府・内務省両者によって担われ,いずれか一方によるものではないとしても,両者間において具体的にどのような関係が存在していたのか.こうした点をさらに検討する必要があろう.10年代に限らず,植民地期全般における内地渡航者に対する政策を考察するためにも,これまで論及されてきた資料の精密な再検討に加え,今後の資料発掘が期待されることはいうまでもない.

 

第215回 在日朝鮮人運動史研究会(5月9日)

 

 戦前の尼崎を中心とした左・「融」朝鮮人団体の葛藤 堀内 稔

※ 原稿がとどいていますが、紙面の都合により来号(9月)に掲載いたします。

 

【研究会の予定】

9月12日(日) 民族(藤永壮) 在日(高木伸夫)

10月3日(日、予定、10日は図書館が休館です) 民族( 金森襄作) 在日(福井譲)

11月14日(日)民族(クリスティーニ)在日(飛田雄一)

【月報巻頭のエッセー】

9月号(福井 譲)10月号(金慶海)11月号(高正子)12月号(クリスティーニ)

2000年1月号(伊地知紀子) ※前月の20日に原稿をよろしく。

 

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編集後記

飛田 E-mail rokko@po.hyogo-iic.ne.jp

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