青丘文庫月報・135号・99年1月1日

 

あけまして おめでとう ございます
本年もよろしくお願いします。

朝鮮民族運動史研究会代表・水野直樹
在日朝鮮人運動史研究会関西部会代表・飛田雄一

  

第175回朝鮮民族運動史研究会(11月8日)
  朝鮮関係コミンテルン資料について
                     水野直樹

今年(1998年)9月、モスクワを10日ほど訪れる機会があった。目的は、ソ連崩壊後公開されたコミンテルン文書の中の朝鮮関係資料を調査することである。和田春樹氏(東大名誉教授)を実質的な責任者とする「コミンテルン・ソ連共産党と日本・朝鮮」研究プロジェクトの一環である。
 13年前にもモスクワ(と当時のレニングラード)に50日ほど滞在して、資料調査をしたことがある。当時は、ソ連共産党直属のマルクス・レーニン主義研究所に保管されているコミンテルン文書を閲覧することなど、まったく考えることもできなかったので、誰でも入館できるレーニン図書館を主に利用した。
 今回は、この研究所を改編したロシア現代史資料保管・研究センター(略称ルツヒドニ)で文書を閲覧することができた。ここには、旧ソ連共産党の文書とコミンテルンの文書が保管され、その相当部分が公開されている。ただし、センター研究員の紹介なしに利用証を出してもらうには、粘り強く交渉しなければならないようである。さらに、今年夏からは、閲覧日が週2日になったうえ、閲覧を請求しても次の閲覧日にしか文書が出てこないなど、利用条件が(特に外国からの利用者には)極端に悪くなった。
 コミンテルン文書は、フォンド(Фонд 文書群)−オーピシ(Опись 目録)−ジェーロ(Дело 一件書類・ファイル)という形で整理されている。オーピシを見て、必要なジェーロを指定して閲覧の請求をするということになる。
 朝鮮関係文書の多くは、「朝鮮共産党」と題された2冊の目録(フォンド495、オーピシ135・136)にリストアップされており、全部で247ジェーロである。ジェーロ(ファイル)の厚さはバラバラで、20ページ分くらいの文書しかないものもあれば、500ページ分ほどの分厚いファイルもある。中国共産党関係の文書は、1222ジェーロあるので、朝鮮関係はその5分の1の分量ということになるが、コミンテルン執行委員会、同委員会の「朝鮮委員会」(臨時に設けられたもの)や東方書記局のファイルにも朝鮮関係の文書が含まれているので、全体でどのくらいの文書があるかは一概に言えない。
 ファイルにはさみ込まれている文書(日本の公文書ファイルのように綴じられていない)は、ロシア語のほかドイツ語・英語・朝鮮語・日本語などで書かれている。朝鮮語による文書は朝鮮共産党やその他の組織・個人からコミンテルンに送られた報告などだが、日本語で書かれた文書で目に付いたのは、執行委員であった片山潜にあてて送られた朝鮮人の手紙や報告である。ビラや雑誌がはさみ込まれたファイルもある。解放直後(1946年春から夏にかけて)の北朝鮮で発行された新聞数種も見られる。
 これらの大半は、ルツヒドニでしか見ることができないものであろう。私がコピーすることができたのは(それも1枚1ドル!!)、そのうちのごく僅かである。すでに韓国の研究者がかなりの文書を調査・複写しているらしい。今後コミンテルン文書を利用した朝鮮共産主義運動史・民族運動史が書かれることが期待される。
 (なお、これらの文書の一部を使った研究として、ロシア人研究者ウソーバの著書『朝鮮共産主義運動1918−1945年――アメリカの歴史学とコミンテルン文書』(ロシア文、モスクワ、韓国学叢書、1997年)がある。)

第210回在日朝鮮人運動史研究会(11月8日)
在日朝鮮留学生の民族解放運動に関する研究―1920年代を中心に―
金 基旺

朝鮮人の日本留学は1881年から始まったが、1920年代に入ってから急激に増加した。留学生たちは日本での生活を通じて民族意識の覚醒や新しい思想の習得などによって民族解放運動に身を投ずるようになる。特に、全留学生の3分の1を占める苦学生は、半ば労働者のような生活を通じてより現実的な問題意識の下で民族解放運動に積極的に参加した。
 在日朝鮮留学生の代表組織である在東京朝鮮留学生学友会は、留学生の大部分が集中している東京一帯の在日朝鮮留学生を組織的基盤として、機関誌の発行や3・1運動記念闘争、巡回講演活動、第2次独立宣言運動など多様な民族解放運動を積極的に展開した。学友会は関東大震災を境に社会主義的傾向を強め、1931年社会主義勢力の運動路線の転換によって解散した。
 1920年代に入って民族解放運動の新しい方法として社会主義を受容した留学生たちは、日本の社会主義運動の影響を受けながらも独自の組織を結成して社会主義運動を展開した。苦学生同友会の幹部たちを中心に黒濤会が結成され、留学生たちによる社会主義運動の嚆矢となる。黒濤会は内部に思想分化によって無政府主義団体黒友会と共産主義団体北星会とに二分された。北星会は在日朝鮮人労働者の組織化や朝鮮内への社会主義の普及に貢献した。北星会の発展的解消によって成立した一月会は、社会主義の宣伝普及に努め、朝鮮内の社会主義団体や日本・中国の無産階級運動との国際連帯を図ると同時に、他の在日朝鮮人団体との共同闘争による抗日民族解放運動を積極的に展開した。
 在日朝鮮留学生たちは留学終了後においても民族解放運動に積極的に参加した者が多く、1920年代における在日朝鮮留学生たちの民族解放運動は精神的、思想的、人的な側面において「民族独立運動の貯水池」として役割を果たし、朝鮮の民族解放運動史上の意義は極めて大きいといえる。

新聞記事紹介
「戦前の日本在住朝鮮人に関連した新聞の見出し/データベース化し紹介/『むくげの会』の堀内さんらインターネットで」(『毎日新聞』1998年12月11日)
(重いファイルです)

青丘文庫研究会のご案内

第177回朝鮮民族運動史研究会/1999年1月17日(日)午後3時
報告者 金慶南
テーマ 「 植民地期における釜山地域の工業構造の変動と工場地区の形成」

第212回在日朝鮮人運動史研究会会/1月17日(日)午後1時
報告者 藤井 幸之助
テーマ 「箕面市外国人市民施策懇話会と箕面市外国人市民アンケートについて」

※会場はいずれも青丘文庫(神戸市立中央図書館内、地図参照)

【研究会の予定】
2月14日(日) 金慶海(在日)、安準模(民族)、3月14日(日)福井譲(在日)、李景a(民族)

【月報巻頭のエッセー】
2月号(横山)、3月号(広岡)、4月号(金慶海)、※前月の20日に原稿をよろしく。

編集後記

★ 『在日朝鮮人史研究』28号は、1月中頃に発行の予定です。在日研究会の会員は年会費4000円を払って3冊を受け取ることになっています。会員でない方には、2月号の「月報」で購入案内を差し上げます。よろしくお願いします。
★ 月報は、8月を除く年11回発行で、年間購読料が3000円です。これも次号の月報に郵便振替用紙を同封しますのでよろしくお願いします。
★ 青丘文庫のホームページ http://www.hyogo-iic.ne.jp/~rokko/sb.html にも「月報」を貼りつけています。お知り合いの方に宣伝下さい。
★ 99年が、みなさまにとって良い年でありますように。 飛田 rokko@po.hyogo-iic.ne.jp

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