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青丘文庫研究会月報<226> 2008年9月1日

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●青丘文庫研究会のご案内●

 ■第306回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

  9月14日(日)午後3時〜5時

 「戦前・戦時下の石川県の在日朝鮮人

    −人口・土工・融和団体・朝鮮飴売り−」砂上 昌一

 ■第261回朝鮮近現代史研究会

  9月14日(日)午後1時〜3時

  占領期在日コリアン・華僑系新聞の政治論説(194850

   ―『国際新聞』『新世界新聞』を中心に―

                        梶居佳広

 ※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫  TEL 078-371-3351

 

<巻頭エッセー>

 義和君と祇園祭 金慶海

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第260回朝鮮近現代史研究会(2008511日)

植民地朝鮮における中国人労働者(その6)

 −1934年の中国人労働者入国制限問題−    堀内 稔

 

 植民地下朝鮮に働き場を求め、多くの中国人労働者が流入してきたことは、これまでの報告(「赴戦江水電工事と中国人労働者」、「新聞社説に見る中国人労働者問題」、「中国人労働者と労働争議」、「鉱山と中国人労働者」、「石工などの技術系労働と中国人」)で見てきたとおりである。こうした中国人労働者に対する一般的世論は、朝鮮人の労働を奪い労働市場を混乱させるというもので、決して好意的ではなかった。

 しかし、その一方で安価な労働力を求める使用者側の意向があり、こうした意向を配慮しつつ朝鮮総督府は、中国人労働者流入による朝鮮人労働者への影響(特に失業問題)から彼らの居住、就業条件などにつき制限を加えるなどの方策を採ったが、その入国については制限しなかった。そこには、満州への大量の朝鮮人移民問題に対する中国への配慮があったものと思われる。

 ところが、1934年になって突然入国制限が実施された。入国制限の方法としては「従来有名無実の外国人入国取締令を強化」し、「所持金一人あたり100円を持っていなければ入国を許可しない」というもので、とりわけ所持金一人あたり100円は出稼ぎ労働者にすればとんでもない大金で、実質的に中国人労働者の入国を拒否するものであった。

 当然、こうした入国制限に対する朝鮮における中国人社会の反発は大きく、19349月にはソウルで大々的な抗議行動が行われた。

 この入国制限直後には仁川に上陸した中国人労働者の数は、「その数は平常時に比べて10分の1に過ぎなかった」とか、「従来の18分の1にあたる56人に過ぎない」などと新聞報道されているとおり激減した。しかし、この入国制限政策がどこまで厳密に実行されたのかは疑問が残る。なぜなら、その後の在朝鮮中国人の数を見る限り、この制限政策は厳密に行われたとは言い難いからである。

 朝鮮総督府『統計年報』による在朝鮮中国人の数をみると、1933 41,266人、1934 49,334人、1935 57,639人、1936 63,981人と推移し、1937 日中戦争の勃発によって4万人代に落ちるが、その後は再び増加傾向をたどっている。要するに、この数字からは先の入国制限による影響を読み取ることはできないのである。

 なぜこの時期に中国人の入国制限が実施されたのか。しかも、実施直後を除きほとんど成果をあげることなく終わったのか。残念ながら発表の時点では、これらの疑問に答えうる資料を見つけることはできなかった。

 19344月内務省を中心に拓務省、文部省、朝鮮総督府などで在日朝鮮人の失業問題、その他社会問題に対する調査研究を基礎として対策が立てられ、同年10月に「朝鮮人移住対策の件」として内閣決定される。その内容は、@朝鮮内において朝鮮人を安住せしむる措置A朝鮮人を満州および北鮮に移住せしむる措置B朝鮮人の内地渡航のいっそうの減少C内地における朝鮮人の融和−というものであった。先の朝鮮における中国人入国制限が、こうした在日朝鮮人の対策と関連しているのかどうか。今後の課題としたい。

 

304回在日朝鮮人運動史研究会関西部会(200868日)

「在日朝鮮人社会主義運動関連機関紙に関する簡単な資料紹介」

                                  小野容照

 

 去る68日の第304回在日朝鮮人運動史研究会関西部会では, 「在日本朝鮮人社会主義勢力の形成に関する若干の考察―『大衆時報』臨時号の資料紹介を兼ねて」という題目で, 新発見の『大衆時報』臨時号を手がかりに, 1920年代はじめの日本における朝鮮人社会主義勢力の形成に関する報告を行った。これに関しては, 今年10月発行の『在日朝鮮人史研究』38号に掲載予定の拙稿「金若水の渡日と『大衆時報』創刊―日本における朝鮮人社会主義勢力の形成に関する一考察―」を参照していただくこととし, 月報では在日朝鮮人社会主義運動に関する資料(朴慶植氏の資料集に収録されていないもの)を簡単に紹介することとしたい。

 まず, 日本における朝鮮人の初期社会主義運動を分析する際, 最も重要な資料が『大衆時報』である。これは, 黒濤会の機関紙『黒濤』に先駆けて発行された雑誌である。今まで, 19226月発行の『大衆時報』第4号しか現存しないものと思われてきたが(大原社会問題研究所で閲覧可能), 実は192151日発行の創刊号の代わりに発行された臨時号(1921.5.25)も残っている。これは, 韓国の円光大学校に所蔵されており, 円光大学校の名誉教授で民俗学者の朴順浩氏が発見したものである。臨時号は, 紙幅が全50頁を越えており, 内容も豊富で, 当時の朝鮮人社会主義者の思想的傾向を分析する際, とても重要な資料である。一方, 翌年に発行された第4号は金若水の影響が顕著に現れた雑誌となっている。1922年に朝鮮では「金允植社会葬」を契機として, 上海派高麗共産党国内支部と, その他の共産主義グループ間で対立が起きるのだが, 社会葬に対する, 日本で活動していた社会主義者の見解を知り得る資料として, 第四号は特に韓国で注目されてきた。

 在日朝鮮人社会主義運動の資料としては, 北星会の機関紙『斥候隊』(1923年創刊)や一月会の機関紙『思想運動』(1925年創刊)が有名であるが, 1924年に創刊された『解放運動』という雑誌も, 創刊号が残っている(大原社会問題研究所で閲覧可能)。北星会は, 日本と朝鮮に活動拠点を持っており, 金若水ら主力は朝鮮で活動していたのだが, 朝鮮で活動していた北星会系の社会主義者が発行した機関紙が『解放運動』であった(ただし, 発行は日本)。官憲資料によれば, 『解放運動』はすぐに廃刊になったようである。また, 私自身は内容を確認出来てはいないのだが, 北星会結成の中心人物の一人, 卞煕kが1922年に創刊した『前進』という社会問題研究雑誌も, 4号が韓国に残っている。

 社会主義運動に関する資料とは少し趣が異なるが, 李達(李東宰)1919年に創刊した『新朝鮮』も注目すべき資料である(創刊号が学習院大学東洋文化研究所に所蔵されている。水野直樹氏のご教示による)。これは日本語で書かれており, 日本人に朝鮮の状況を伝える目的で発行された雑誌である。原敬のインタビューらしきものも掲載されているが, その信憑性は怪しい。この資料は, 何よりも日本社会主義同盟の機関誌『社会主義』に寄贈図書として紹介されたことが重要である。堺利彦をはじめとする日本人社会主義者の朝鮮や, 植民地認識を分析する上で有益な手がかりとなるだろう

 以上のように, 官憲側資料や広告, 新聞記事などから, その存在のみが指摘されてきた資料も, 断片的ではあるが実物を確認することが出来るようになっている。これらの資料を活用することにより, 官憲側資料や, 主に韓国の研究で積極的に活用されている, 朝鮮人社会主義者がコミンテルンに送った報告文書などの内容の信憑性をより精密に検討することが可能となる。今後も, 新資料の発掘に努めるとともに, 朝鮮社会主義運動研究に邁進していきたい。

 

【今後の研究会の予定】

 10月12日(日)、在日(未定)、近現代史(黒河星子)。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。 

【月報の巻頭エッセーの予定】

 10月号以降は、斉藤正樹、坂本悠一、高野昭雄、塚崎昌之、土井浩嗣、中川健一、玄善允、松田利彦、三宅美千子、吉川絢子、李景a。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

【編集後記】

           神戸はきょうの朝、ひどい雷でした。みなさんの所ではいかがでしたでしょうか。「地震・雷・火事・おやじ」。やはり、怖いのはこの順でしょうか? 飛田 hida@ksyc.jp

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