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青丘文庫研究会月報<216号> 2007年9月1日

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

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     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。

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●青丘文庫研究会のご案内●

■第252回朝鮮近現代史研究会

 9月9日(日)午後1時〜3時 孫正権

 「日帝下朝鮮社会におけるネーション像の受容と変容」孫正権

■第295回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

 9月9日(日)午後3時〜5時 本岡拓哉

 「広島太田川沿いの朝鮮人集落撤去問題」

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫  TEL 078-371-3351

 

<写真>略

第3回在日朝鮮人運動史研究会 日・韓合同研究会 2007.8.45 於/東京

 

<巻頭エッセー>

不動産登記で考えさせられる事        堀添伸一郎

 

 年初から不動産登記の業務に従事している。煩雑な登記の中に相続登記がある。保有不動産を相続によって所有権を移転する登記である。登記申請で添付する書類に戸籍謄本が必要となる。韓国籍の方の場合、申請にあたって戸籍を韓国から取り寄せる事になる。しかし旧韓国籍の場合、韓国に戸籍謄本の送付を依頼しても外国人には戸籍謄本は送付されない規定により拒絶される。

 20041220日に規定された「在外国民及び外国官公署に対する戸籍謄抄本の送付方法」において外国人には韓国国籍の謄抄本の発行を認めないとした。それ以前は、「在外国民、外国人及び外国官公署に対する戸籍謄抄本の送付方法」に基づいて在日韓国人向けに韓国の戸籍謄抄本の発行を認めていた。

現在、旧韓国籍の方々は登記申請にあたって自らの戸籍謄本を取り寄せられない難題を背負うことになる。実務上、戸籍謄本が無くても、何らかの証明手段は残されており、登記は可能であるはずだが、相当な労力と時間を要することになる。

 韓国政府が主張する外国に対する韓国国民の個人情報保護は国家の責務であろう。しかし以前、韓国籍を保有し、その後、国籍取得等で除籍された人に対しても外国人という理由で容認しないのは、適切ではない。戸籍送付依頼は、国籍取得や登記申請に用いるなど生活上重要な事案として要請されているものである。韓国政府は、今後、指針の改正が求められよう。また日本政府にも旧韓国籍の方々が二国間の法制度の狭間で不利益を被らない様、対応すべきである。

 

第251回朝鮮近現代史研究会(2007年7月8日)

組合教会朝鮮伝道と同化政策  エミリ アンダーソン

 

 1911年から1921年の間に組合教会が行った朝鮮伝道は日本のキリスト教と日本帝国の関わりを考える時に得に興味深い課題である。これまでの研究では朝鮮伝道主任渡瀬常吉が注目され、特に彼の思想と朝鮮総督府との関わり合いが批判的に評価されている。しかし、実際の伝道活動は殆ど取り上げられていないし、他の組合教会宣教師も触れられていない。私のこれからの研究はもっと具体的に渡瀬の伝道事業と同時に渡瀬以外に朝鮮で活動していた組合教会の宣教師 を中心にどのように組合教会の朝鮮伝道が朝鮮総督府の同化政策をサーポートし、またどのように異なり、そして組合教会の伝道方針がどのような理由や論理で行われていたかに重点を置きたい。

 日清戦争勃発と共に、日本キリスト教界では朝鮮で伝道をする必要性が議論され、特に日本基督組合教会の元老とされている海老名弾正、そして彼に影響されていた渡瀬常吉が先頭に組合教会が朝鮮伝道を開始する準備を行った。1904年に調査団と言う形で組合教会の元老宮川経輝が朝鮮に渡り、在朝日本人に対する伝道を開始する。1910年朝鮮併合直後の組合基督教会伝道協会総会で朝鮮伝道部設立が決定、主任に渡瀬が選ばれる。19117月に渡瀬が朝鮮に赴任、伝道部を京城に設立する。

 伝道部設立当時から渡瀬は主に二重の伝道方針を示している。一つは 正しいキリスト教を通して文明/発展に導くと言う事で、これは具体的に朝鮮人を日本人宣教師のキリスト教へ回心させ、また朝鮮人クリスチャンを組合教会に所属させ、間違ったアメリカ人宣教師の保守的なキリスト教から救うと言う事。もう一つは 朝鮮人クリスチャンを同化することによって同化政策を助け、アメリカ人宣教師の影響を弱め、排日運動を弱めると言う目的であった。

 渡瀬は海老名と共に伝道部の正式な開始以前に二度朝鮮に渡り、京城や平壌で主に在朝日本人に対し演説を行い、この伝道方針と朝鮮人に対する伝道の必要性を訴えた。実際に朝鮮人に本格的に伝道を始めたのは朝鮮人牧師でアメリカ人宣教師から独立した車學淵が渡瀬の事務所を訪れ、彼と同じくアメリカ人宣教師から独立したもう一人の朝鮮人牧師の教会を組合教会に所属する話を持ちかけた時であった。

 この訪問をきっかけに、渡瀬は全羅南北道と忠清南北道を訪れ、この旅での体験や感想を旅行記「ひずめの跡」を通して他の日本人に伝えた。感想は 都会から田舎の風景の変化、 朝鮮人の風俗・生活の感想、そして 教会活動や状況などに関するものであった。その内容は朝鮮人が日本人に比べて近代化が遅れている、衛生状況が悪い、礼拝では礼儀正しく座る会員が少ないなどと当時の朝鮮へ渡っていた日本人の象徴的な感想である。他に朝鮮組合教会第一回大会の実態も記し、そこで朝鮮人会員に彼等が 日本帝国臣民である事を訴え、礼拝で国家的儀礼をキリスト教の儀式に加えたり、朝鮮総督府の代表が演説を行ったなどと組合教会と朝鮮総督府と深い関わりを明らかにしている。

 しかし渡瀬は単独で伝道を行っていたのではなく、彼以外に何人もの日本人宣教師が朝鮮に渡っていた。中でもっとも興味深いのは平壌近辺で伝道を行っていた高橋鷹藏である。彼は帝国主義や植民地支配に賛成しながら、自ら朝鮮人と同じ服をまとい、韓国語で伝道用の本などを書き、朝鮮人がキリスト教に自分達の国民性を見いだす必要性も訴えた。同化政策を意識的に応援していた組合教会の伝道方針と異なる行動だとも言えるだろう。

 

<写真、東京での研究会>略

山田昭次さん、古庄正さん、塚崎正之さん、金廣烈さん、金賛汀さん

熱心な参加者たち

 

【今後の研究会の予定】

 10月14日(日)、在日・梁明心、近現代史・未定。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

 

【月報の巻頭エッセーの予定】

 10月号以降は、金誠、佐藤典子、佐野通夫、田部美智雄、張允植。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

【編集後記】

           猛烈な今年の暑さですが、9月に入れば涼しくなるのでしょうか。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。私は、8月12〜19日、中国の三大熱釜のふたつ南京、武漢(もうひとつは重慶)に行ってきましたが、どうやら日本より涼しかったようです。

           遅くなりましたが07年度の青丘文庫研究会会員証を作りました。申し込まれた方にはこのニュースとともにお送りします。会員は月報の年鑑購読料3000円をお支払いください。ただし学生会員はメールニュースのみを受け取ることを条件に無料としています。また在日研究会のメンバーは年会費5000円で毎年10月に発行される雑誌を3冊入手することができます。

           8月4〜5日に東京で開かれた「第3回在日朝鮮人運動史研究会 日・韓合同研究会」は盛況でした。在日朝鮮人運動し研究会関西部会からも参加しました。ご準備くださった関東部会の方々、ありがとうございました。第4回は2009年に神戸でと考えています。是非、実現しましょう。

           まだまた暑い日が続きます。みなさま健康に留意してご活動ください。

                          飛田雄一 hida@ksyc.jp

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