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青丘文庫月報192号(2004年12月1日)   PDFファイル版

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●青丘文庫研究会のご案内●

■第266回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

12月19日(日)午後1時〜3時

「神戸市長田区湊川大橋バラック住宅地区【大橋の朝鮮人部落】の形成からその解消まで,そしてその後」 本岡拓哉

■第227回朝鮮近現代史研究会

12月19日(日)午後3時〜5時

「開港前、韓日朱子学の危機意識と対応−李恒老と大橋訥菴との比較」 林茂澤

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

 

●巻頭エッセー

『性売買特別法』について考える  堀添伸一郎

 去る923日、韓国で『性売買特別法』が施行された。日本ではNHKで報道され、10月に入り「生存権を保障せよ」と訴える風俗嬢たちのデモ風景をご覧になった方も多いと思う。何故、風俗嬢たちはデモを行っていたのであろうか。そして『性売買特別法』とは何なのだろうか。既にご存知の方も多いと思われるが、この場をお借りして考えてみたい。

 従来、韓国で売買春に関する主要な法令は米軍政下における『公娼制度廃止令』(19471114日公布)、軍事政権下で制定された『淪落行為防止法』(1961119日公布・施行)、及び『風俗営業の規制に関する法律』(199138日公布)が施行されていた。しかし旧法は拘束力が著しく限定され売春行為は解放後から今日に至るまで黙認されてきた。旧法を強化する目的で制定されたのが『性売買被害者保護法』と『性売買斡旋等処罰法』であり、総称して『性売買特別法』とされている。旧法は売った方が強制の有無にかかわらず、1年以下の懲役と300万ウォン以下の罰金が科せられていたが、今回の『性売買特別法』では自発的に性売買に応じた場合のみ処罰対象となる。強制があった場合は業者と買った人のみが処罰対象となる。強制された性売買の場合、売った方は被害者として保護される。借金(前渡金)を理由に売春を強制するのが従来の形式であったが、『性売買特別法』では売買春に強制があったと認められた場合、債務は一切、無効とされる。『性売買特別法』は従来、泣き寝入りを強いられてきた被害女性保護の観点から実施されるわけである。

 何故、この時期になって旧法に代わり制定、施行されたのであろうか。2000年、全羅北道群山市で発生した置屋の火災事故で監禁状態で売春を強いられていた5人の女性が逃げられずに犠牲となる悲惨な事故が発生した。今年になりこの事故を巡る裁判で被害者の遺族に国と業者が慰謝料を支払う判決がなされ原告勝訴となった。加えて裁判では警察側の売春行為の黙認状態が明らかにされ警察と業者との癒着を改めて世間に知らしめる結果となった。この事故を背景に管理売春の根絶を訴える世論が一気に高まり『性売買特別法』制定へと至ったのである。女性保護の観点で制定された『性売買特別法』である。

 何故保護される側の風俗嬢が施行延期、生存権保障デモを行ったのであろうか。与党庁舎前で『性売買特別法』施行延期を求める風俗嬢たちのデモ、ハンガーストライキなどが11月になっても継続しており生活の手段を奪われた風俗嬢の反対は根強い。収入の道を閉ざされ絶望した風俗嬢の自殺未遂が多発するなど受け止め方は好意的とは言い難い。『性売買特別法』が風俗嬢の収入の道を閉ざし、代替となる職業、風俗産業と同水準の収入を保証していない点が背景にある。韓国における風俗産業の経済的規模はどれほどの規模であろうか。韓国刑事政策研究院の試算によると2002年、韓国における風俗嬢の最低総数は約33万人、風俗店が約8万店、取引規模が24兆ウォンで同年の国内総生産の4・1%に達する。単純に考えると『性売買特別法』施行に伴いGDPの約4%が減少するわけである。政府の一部には『性売買特別法』施行後、急速に悪影響が露呈しつつある経済界の動向を危惧する声が上りはじめている。非公式見解として財政経済部関係者が10月28日、「性売買特別法の影響で来年目標の5%台成長達成は厳しくなったことは否めない」との見通しを示したのである。『性売買特別法』施行に伴い風俗業と関係が深い宿泊業、飲食業、美容・エステ業等の収支も急速に悪化し、これらの業界に多大な融資を行っていた金融業にも深刻な影響が出ている事実を背景にしている。『性売買特別法』施行の陣頭指揮にあたっている池銀姫女性部長官は1013日、「これまで何度か話したように、今回の特別法施行は性売買との戦争と変わりない」と意気込みを改めて表明した。同時に「韓国はIT強国、W杯開催国などの肯定的イメージとともに腐敗と過多な売春、人身売買国という汚名を同時に持っている」とし、「セックス観光などで一定水準の経済が維持されているというのは国際的に恥ずべきこと」と強調した。法律施行当初は風俗嬢に対する生活保障は皆無に等しかったが、池長官は11月3日、「売春行為をやめたことが確認されれば、自活支援施設に入所しなくても、緊急の生計支援や医療・法律・職業教育・創業支援などを行なう」と述べるまでに至った。加えて女性部は、施設に入所しない女性に対し、6カ月間・月50万ウォン(約5万円)以内の職業教育、300万ウォンの医療費、350万ウォンの法律訴訟費用、3000万ウォンの創業資金などを支援する計画を表明した。しかし生計費支援の規模は確定されておらず先行きに一抹の不安を感じさせる。11月下旬の急速なウォン高ドル安に伴う貿易収支の悪化予測も加わり今年度の経済成長率は2%台に留まるとの試算も出始めている。現時点では保護される風俗嬢が反対の立場に回るなど極めてねじれた状況であり、政財界、警察と密接な関係を有する風俗業界の政治的巻き返しが予想されるなど『性売買特別法』が何らかの形で空文化されかねない危険性は否定できない。売春の根絶を最大の目標に世界史上、初の試みと言われた『性売買特別法』であったが、11月になり政府は「今後、風俗産業を整理縮小し3分の2の規模にする」と振り上げた拳を徐々に下ろしつつある。

 社会では「売春との戦争」というスローガンが謳われているが、私は生ぬるい表現であると考える。むしろ「家父長制に対する戦争」ではなかろうか。今日に至るまで重要産業から排除された女性は泣く泣く性産業に追いやられたと言っても過言ではない。李承晩政権期、農地改革・朝鮮戦争で生活を破壊され、家父長制的職業形態下、主要産業を男性に占められ働き先を締め出された女性は日々の糧を求めて米軍基地に群がる私娼となった。引き続き軍事政権も風俗嬢を外貨獲得の手段とした。女性は家父長制的社会構造下で劣悪な地位に甘んじざるを得なかった。この遺制が今日に至ってもなおGDPに占める性産業の高比率という結果をもたらしている。現在でも女性が男性と同水準、もしくはそれ以上の収入を求める場合、風俗業に従事せざるを得ないのが現実である。「風俗嬢の84%が暴行、脅迫をうけながら売春に従事した」現実がある以上、風俗業が女性に愛されている職業であるとは私には到底、思えない。むしろ最も忌避したい職業である。女性を風俗業へと追いやる根源である女性蔑視、家父長制的社会構造、職業構造を打破しなければ、『性売買特別法』が厳密に適用されても風俗嬢の総数も惨状も何ら改善されることはないであろう。しかし、「売春との戦争」の幕は上げられたのである。様々な問題を露呈させた『性売買特別法』であるが、家父長制社会、女性蔑視のあり方を再検討させる嚆矢となる事を期待して止まない。そして止む無く風俗業に従事している女性たちが『性売買特別法』適用後、行き場を失わないように官民一体となって手厚い支援がなされることを願って止まないものである。(表現上、風俗産業に従事する女性を「風俗嬢」という表現で統一致しました。不適切な表現であると思われる方もおられると思いますが、近年の表記に従って用いました。責任は全て堀添にあります。御理解頂けましたら幸いに存じます。)

 

<第225回朝鮮近現代史研究会(2004年6月13日)>

朝鮮におけるウィルソン主義の源流 金光旭

 第一次大戦後、二〇世紀のアメリカ外交はウィルソン主義に根付かせることとして特徴付けられる。アメリカ外交におけるウィルソン主義は、二一世紀に入ってからもその勢いが劣っていない。そのような脈絡で、本稿の狙いは、アメリカ外交におけるウィルソン主義に照らして、米国と朝鮮との二者関係を究明し、朝鮮におけるウィルソン主義の原点を明らかにするところにある。ウィルソン主義に注目する理由は、理想・人道主義だけでなく、国益によって導かれたウィルソン主義に基づく米国の対外政策は世界各国にどのような影響を与え、受容されてきたかについての関心からである。すなわち、ウィルソン主義を伝播した側だけでなく、それを受容した側の情勢をも含めて検討するためである。特に、近代化過程における東アジアや朝鮮を念頭に入れた場合、外国思潮との衝突を繰り返しながらも、そこから影響を受け入れてきたことに注目した。

 まず、米国が植民地下の朝鮮をどのように認識し、どのような政策を取ってきたかという点に焦点を当てた。また、朝鮮側はアメリカに何を期待していただろうか。具体的な論点は、朝鮮植民地期に成立した臨時政府の外交活動とウィルソン主義との係わりである。臨時政府の外交は、その活動の源泉をウィルソン主義に求めようとしていたが、アメリカの対外政策との合一性を引き出すことまでに至らなかった。ウィルソン主義を掲げたアメリカ対外政策は、ヨーロッパに限られていて、その他の地域とは区分されたからである。

 その後、ワシントン会議を通して構築された日米協調体制期を経て、満州事変以降、アメリカの対日政策の転換は、臨時政府としてはアメリカと提携できる天機のようであったが、朝鮮の海外勢力はそれを独立のための舵取ることのできる態勢を確保せず、解放を迎えた。

 アメリカの戦後構想として用意した朝鮮信託統治案には、ウィルソン主義からの影響が多く染み込まれている。同案は戦前の植民地を独立へ導くための過渡期として設けられ、戦中に形成された米ソ協調を通して、それを実施しようとした。その過渡期に米ソのどちら側も朝鮮半島に敵対国家の出現を防ぎ、友好国家の出現を期待していた。

 さらに、アメリカの南朝鮮占領後、南朝鮮での反共の砦の構築と韓国政府の樹立過程で現れた、ネオ・ウィルソン主義者たちの企画とその意図には戦後朝鮮に対しても積極的にウィルソン主義が展開されることが窺われている。

 戦後、アメリカの朝鮮政策は、アメリカ民主主義を盾に自国の制度や価値を優先してきたが、伝統を重んじる朝鮮の社会との衝突を繰り返してきたことが目立っている。また、このようなプロセスについての究明は、朝鮮半島を中心にした今後の東アジアの行方を予測するときに有用であるため、関心を持ちつづけながら注目したい課題である。

 

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<(財)世界人権問題研究センター研究第3部公開研究会>

【日時】 20041212日(日) 午後130分〜(午後1時開場)

【会場】 京都市国際交流会館(地下鉄東西線「蹴上」駅より徒歩6分)

【報告者】 徐 京植(東京経済大学)

      佐藤信行(在日韓国人問題研究所)

【司会】  仲尾 宏(当センター研究第3部長・京都造形芸術大学)

【コメンテーター】 水野直樹(当センター客員研究員・京都大学)

          鄭 早苗(当センター嘱託研究員・大谷大学)

【後援】 (財)京都市国際交流協会

※参加費無料・当日先着順受付(定員80名、満員になり次第しめきり)

※お間合先 (財)世界人権問題研究センター

      〒6040857 京都市中京区鳥丸通二条上ル 京欒鳥丸ビル

           TEL 075-231-2600 FAX 075-231-2750

 

【今後の研究会の予定】

2005年1月9日、在日未定、近現代史・金永基、2月13日、3月13日、4月10日、

※研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

【月報の巻頭エッセーの予定】 

2005年1月号以降は、本間千景、松田利彦、水野直樹、文貞愛、森川展昭、山田寛人、横山篤夫、李景a。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

<編集後記>

★いよいよ師走になってしまいました。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。今年最後の月報をお届けします。

★先月、韓国の民主労総の活動家と障害者施設の代表が神戸を訪問されました。岡山県津山市で開かれた車椅子駅伝の韓国代表団の団長が自分が理事長を勤める施設で行っている蛮行を糾すためでした。大会そのものを妨害しにきたのではありません。学生センターに2泊されて交流会をひらきましたが、韓国の民主労総の力が障害者解放運動にも影響力を持つようになっていると感じました。むくげ通信11月号に少し報告を書きました。http://www.ksyc.jp/mukuge/207/hida.htmでもごらんいただけます。よければのぞいてみてください。PDFファイル版もあります。

★来年は2005年、戦後60年、日韓会談40年などなどです。この歴史の節目を、過去を正しく見据える機会としたいと思います。飛田雄一 hida@ksyc.jp

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