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青丘文庫月報・182号・2003月10月1日

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<北朝鮮パッシング>狂乱の行くえ 梁 相 鎮

最近の狂乱的な<北朝鮮パッシング>は、我が同胞の中で阪神フアンを急増させている。これは、我が国に対するあまりにも目に余る誹謗中傷TVをみるのに耐えかねた同胞が、TVチャンネルを野球放送に切り替えるための現象である。

米国ブッシュ大統領の悪の枢軸発言から朝鮮に対し先制攻撃戦略による<核威嚇>に始まったのが何時の間にか朝鮮の<核脅威>にすり替わり、多国間協議による朝鮮の核問題解決が焦点になっている。米国は、朝鮮に核開発の放棄を強要しているがこれは、我が国の核の抑止力をなくし武装解除をさせた上で先制攻撃戦略を行うとするもので、我が国は到底受け入れることが出来ない。何よりも米国が朝鮮に対する敵対政策を放棄することが問題を平和的に解決する前提となる。

米国は、力で朝鮮を抑え付けることができないために、朝鮮を悪者にするキャンペーンで国際的に孤立圧殺する戦略を遂行している。それに便乗して日本では拉致問題を利用することから始まり<北朝鮮パッシング>の狂乱的な様相が日本では荒れ狂うようになった。

 拉致問題は、我が国の首脳がそれを認め謝罪し本人家族の意向に添って解決することを明らかにしているにも関わらず米国の戦略に従って<全て北朝鮮が悪い>の大合唱となった。これに群盲象をなでる式の似非朝鮮問題専門家たちの伴奏(評論・解説)がついて誤った朝鮮認識が流布された。

それがために朝鮮学校に通学する学生に対する嫌がらせや、我々の会館や信用組合に爆弾が仕掛けられ拳銃弾が撃ち込まれる事件や、国立大学受験資格を認めないことや、中央会館に対する免税措置を取り消す等,我々に対する人権侵害や生活を脅かす一連の敵対行為が何憚らず横行している。

<北朝鮮パッシング>に<脱北者>の証言というものが利用されている。元々これらは、己の行為を正当化し、ことを誇大に吹聴することにより己の醜い身代金をつり上げている者で、例えば朝鮮労働党の大物だという黄長Yは、公金を流用し女狂いをした破廉恥漢であり、また金策工業大学を落第した青山某が、我が国の最高機密のミサイル製造に関与していないことを知りながら日本当局やマスコミは、このまことしやかな情報を流す犯罪者を<北朝鮮パッシング>に利用した。日本のあるTV番組において朝鮮問題で<対話派>の人が拉致議員連盟らの<圧力派>の罵詈雑言を浴びせられ、出演した田原総一郎氏や姜尚中氏もその後、右翼から脅迫を受ける状況になっている。

私は7月にマンギョンボン号で祖国の親族訪問に行く予定であったが、日本当局の船舶検査強化名目の<制裁措置>で行けなくなった。これは、米国議会で覆面をした<脱北者>がマンギョンボン号で定期的にミサイルの部品を密輸しているとの<演出証言>から、通常2〜3名で行う船舶検査をマンギョンボン号に対して200名を投入し、1800名体制で監視を行うとした。その者たちが麻薬を船内で発見したとでっち上げる危険性もあった。実際,些細なことで入港拒否となった船も出て来た。叩けば幾らでも埃が出る式の検査を全ての外国船舶に適用すれば、日本に来る船舶の半分は入港不能になると、ある船舶関係者が話していた。この<脱北者>は、韓国情報当局では、機密に接する機会のない下級職員で韓国ではそのような情報を伝えなかった信用出来ない者だとしている。これもマンギョンボン号を<北朝鮮パッシング>の標的とした米国の情報謀略である。

このような<北朝鮮パッシング>の結果は、ある民放世論調査で示された日本が朝鮮に対する武力攻撃を容認するのが50%を越える数字として現れた。このような<北朝鮮パッシング>は、有事法制という戦時動員法を制定する下地となった。これは米国が企む<米日軍事核戦争体制>強化の仕上がりであり、万一米国の朝鮮に対する先制攻撃戦略が実施されると、日本は危険な瀬戸際に立たされるガイドラインとなった。米国の核の傘の下でも日本は決して安全ではない。

今や日本は、米国に追随する朝鮮に対する敵対的対応を歴史的な<平壌宣言>履行に政策転換を行い、拉致問題等の懸案問題解決のためにも信頼醸成コ−スに舵を切り替えるべきである。(2003年7月)

 

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253回在日朝鮮人運動史研究会

「指紋押捺制度と80年代における指紋押捺拒否運動」金隆明

 

 1952年4月28日、外国人登録法(以下、外登法)が公布・施行された。指紋押捺制度(以下、指紋制度)とはその中の一条項として導入されたものであり、14歳以上(82年の法改正以後は16歳)の外国人は外国人登録を行う際に、左手ひとさし指の指紋を押捺しなければならない、と定められた。この制度の目的は、密入国や外国人登録証の不正受配の防止、登録者の同一人性確認のためであったが、それは言い換えれば外国人(主に朝鮮人)の動向を常に把握できるように管理するということであった。

 こうした指紋制度に関する研究は、指紋押捺拒否運動(以下、拒否運動)が大きな社会運動として展開されていく1980年代までは、主に官憲側によって進められた。やがて80年代に入ると拒否運動の広がりとともにそれと呼応し合う形で、主として拒否運動に理論的根拠を与える立場で盛んに行われるようになる。まさに理論と実践が一体化したような展開をみせていたが、1987年9月の外登法改正によって、指紋押捺が一回のみとなって以降、拒否運動という実践も次第に収束に向かい、と同時に理論の方も役目を終えたかのように徐々に発表数が漸減していく。93年1月に永住者への指紋押捺が廃止されて以降、指紋制度に関する専門的な研究、そして拒否運動に関する総括を試みた研究はほとんどないと言っていい。

 今回の報告では指紋制度が成立するに至った過程を踏まえ、この制度が当局側にとってどのような意味をもったのか検討し、また対象者である外国人にとってはどうだったのか、拒否運動という指紋制度に対する直接的抵抗運動から検討を試みた。そしてこれらの検討を通して拒否運動の特徴について提示した。すなわち、@在日コリアンへの差別・抑圧状況全般に対する怒りと不満の爆発、A定住志向の高まりから世代が下るごとに日本人と同等の権利が認められて然るべきという若い世代の参加、B韓国・朝鮮籍以外の国籍をもつ外国人も運動に参加することによる「在日朝鮮人運動」の国際化、の三点である。

 指紋制度が国家による個人の管理を貫徹するための道具として機能していたことを考えると、この研究を進めることは国家と個人(特に外国人)の関係を考えることと同義だと言える。また拒否運動は民団や総連といった組織主導ではなく、政治思想やイデオロギーから自由な形で、ただ個人の「人間宣言」として展開されたものであった。そのためこれまで“民族”というスローガンの中に埋もれていた女性をはじめとした更なる社会的弱者の声も吸い上げ、また韓国・朝鮮籍以外の外国人も加わることによって運動側自身の意識変革を迫る性質も帯びていた。こうした拒否運動は、日本人との連帯により93年の指紋制度廃止として結実する。ここで重要なことは、参政権のない外国人が制度を変えたという事実であろう。

 それではその結果、外国人政策は国家による管理というものからどう変わったのか、そして拒否者たちが唱えた「人間宣言」はこの結実の中に昇華されたのか、といったことが次の問題となる。残念ながらそれらは積み残されたままであろう。日本社会が多文化多民族多国籍共生社会を目指すのであれば、こうした問題に取り組むこと、そして80年代に社会を大きく巻き込んだ拒否運動という一大ムーブメントを総括することが必要とされるだろう。

 

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在日朝鮮人史研究33号(200310月)

(緑蔭書房、A5196頁、2400円+税)

<目次>

金斗鎔と「プロレタリア国際主義」 鄭栄桓

三菱高島炭鉱への朝鮮人強制連行 竹内康人

南朝鮮の新聞にみる在日朝鮮人―1945年〜1950年 宋恵媛

戦後日本映画における「在日」像をめぐる言説空間 梁仁實

『おとこ道』復刻の論理―その書誌的検証 内藤寿子

『百年の旅人たち』と九〇年代の李恢成 朴正伊

韓国における在日朝鮮人史研究 金仁徳(坂本悠一訳)

(資料紹介)「明治四十四年中内地在留朝鮮人ニ関スル調」福井譲

会の記録(2002.9〜2003.7)

※在日研究会会員(年会費5000円)の方には、3冊配布いたします。その他購入希望の方は1頁の<郵便振替>で2400円(送料とも)をご送金ください。


●青丘文庫研究会のご案内●

第254回在日朝鮮人運動史研究会関東部会

10月12日(日)午後3時〜5時

4・24阪神教育闘争を振り返って」梁相鎮

第220回朝鮮近現代史研究会

10月12日(日)午後1時〜3時

「ソウル九老地区における中国の朝鮮族」金永基

 

【今後の研究会の予定】

11月9日(日)、在日(塚崎昌之)、

近現代史(堀内稔)

12月14日(日)、在日未定、近現代史(金慶海)

※研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

 

【月報の巻頭エッセーの予定】

1月号(坂本悠一)、12月号以降は、、張允植、塚崎昌之、広岡浄進、福井譲、藤井たけし、藤永壮、堀内稔、堀添伸一郎、本間千景、松田利彦、水野直樹、文貞愛、森川展昭、山田寛人、横山篤夫、李景a。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

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神戸学生青年センター・朝鮮史セミナー

韓国における政治とイデオロギー〜世界の中で考える〜

第1回         10月31日(金)    

李承晩とその時代 −「盗人のようにやってきた解放」とその影響

第2回         11月7日(金)                  

朴正煕と正統保守野党のディレンマと葛藤 − 体制と民主化をどう説明するか

第3回         11月14日(金)    

豊かな韓国の明るい統一論− 新しい世代の理想と現実

 − 時間はいずれも午後6時30分〜8時30分

●会 場 神戸学生青年センター  (078)851-2760

     (阪急六甲下車、北東徒歩2分)

●参加費 全3回、2400円(一回800円、学生は半額)

     ※連続講座ですが、一部の受講も可能です。

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<編集後記>

      食欲の秋、・・・の秋となりました。いかがお過ごしでしょうか。10月12日の研究会の日にJR長田駅前広場で「統一マダン」が開かれます。昨年のように研究会の二次会として参加したいと思っています。

      毎年10月の第3日曜日(今年は、10月19日)に神戸電鉄敷設工事で犠牲となった朝鮮人労働者の追悼会(12:00〜)をモニュメント前で開いています。終了後、事故現場のひとつである烏原貯水池公園で焼肉の会。要予約、飛田まで。(飛田雄一 hida@ksyc.jp)

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