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青丘文庫月報・179号・2003月5月1日

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●青丘文庫研究会のご案内●

※5月は、発表者の都合により在日研究会の報告を2本行ない、6月に近現代史研究会2本行ないます。

●第250回在日朝鮮人運動史研究会関西部会
 5月11日(日)午後1時〜3時
「神戸・尼崎における在日集住地区の住環境推移とまちづくりの課題」 
 三輪嘉男氏

●第251回在日朝鮮人運動史研究会関西部会
 3月11日(日)午後3時〜5時
「サハリン朝鮮人棄民問題−問われる日本の戦後処理」
 稲継靖之氏

会場はいずれも青丘文庫(神戸市市立図書館内)

「統一教科書」という詭弁   梁永厚 

 学校の教科書の編集と採用には、大きく分けて、自由発行・自由選択制・検定制・検定済教科書からの選択制・一教科一種の国定教科書などがある。いま日本にある朝鮮学校では、どんな教科書が使われているのだろうか。
 それは、「在日同胞を共和国の周りに結集する」を第一綱領としている朝鮮総連中央常任委員会教育局に特設の教科書編纂委員会が編み、共和国政府教育部の批准を受けた、いわば一教科一種の国定教科書だといえよう。
 その朝鮮学校教科書を、「21世紀を生きる同胞の子どもたちが、日本はもちろん国際社会を舞台に力を発揮できる民族性と実力を育てるために」、10年振りに大幅に改編し今年の4月から使用する、と朝鮮総連機関紙『朝鮮新報』のさる1月24日号は大きく報じ、全教科の学年制に扱う主な内容までも載せている。
 しかし、主な内容たるや、「統一教科書をめざす」とか、「在日朝鮮人の自己を」(アイデンティティーを探しているようである)とか、「故郷の知識もしっかり」‥‥などといった言葉を踊らせているだけで、エッセンスは守旧であり、「21世紀を生きる子どものための」の斬新な教科書とは、到底考えられない。
 たとえば、中級3年の朝鮮史には「抗日パルチザン闘争と基本」に国内外で展開されたさまざまな民族独立運動、日本の統治政策と支配の実態、被植民地期の朝鮮民衆の生活状況、在日朝鮮人の生活と民族独立闘争、植民地期・朝鮮の文学、芸術、学問、科学技術などの文化を初めて扱う、と紹介されている。そして、この教科書を「北と南、海外同胞が共有できる統一教科書をめざす」ものと自評している。はたして「抗日パルチザン闘争」即ち「金日成中心史観」を基本とする歴史記述をもって、「統一教科書」とするのは主観・独善的であり、客観的には明らかに詭弁である。つまり統一は、南北の両体制が統一政策において一致をみるか、さもなくは一方の体制が崩壊しないと実現しない。一方の「史観」を基本にするというのは、守旧的であり未来を断つことになる。
 さらに初・中を通した社会科では、「南朝鮮社会と統一問題を扱った」と紹介されている。南朝鮮社会は韓国という政治機構のもとにある社会である。統一問題を推進していくパートナーは韓国という体制なのか。南朝鮮社会なのか。韓国の体制を無視または否定する意味で、南朝鮮社会という用語を使っているのなら、これも守旧的であり、かつ詭弁を弄していることになる。
 また初級5年の朝鮮地理では、「故郷の知識もしっかりと」、と学習目標をあげている。いま朝鮮学校に通っている世代は、日本生まれの日本育ちである。よって「故郷」は、生地の日本となり、朝鮮は父祖の故郷であり、かれらにとってはルーツの地にすぎない。ちなみに「在日」という呼び方も、三世〜四世には適切ではない。的確な呼び方のコンセンサスが求められる。
 ついでに触れさせて頂くと、報道された阪神朝鮮初級学校の売却問題は、「民族教育」運動の歴史からすると、売却反対を唱えている人びとが、主張しているのは一〜二世同胞の総意にちかいといえる。教科書も大事であるが、ほとんどの朝鮮学校が校地・校舎を担保に、多大な借入金をかかえて現状をどう打開するかも大事である。教員や学校運営を担っている教育会の役員を「民族のため」「祖国のため」といった精神主義でもって使うことは、もうほどほどにすべきである。21世紀に見合った教育内容と、学校運営の健全化のための、全同胞的な議論を呼びかけるものである。

第217回 朝鮮近現代史研究会4月6日(日)
公州憲兵隊本部・忠清南道警察部編『酒幕談叢』に見る
植民地期初期朝鮮の社会状況と民衆         松田利彦

 本報告では、植民地期初期の忠清南道において、憲兵警察が酒幕で民衆の談話を採録した記録『酒幕談叢』(1912、14、15各年に編纂されたものが残っている)を紹介・分析した。もとより資料上の限界のため試論的段階であることを断っておかねばならないが、同資料から浮かび上がってくる民衆の姿は以下のようなものだった。
 日本の植民地支配が開始されたこの時期、朝鮮民衆は、日本の植民地支配総体あるいは朝鮮王朝時代の支配体制・支配理念の変容・解体に対して、両義的な―時には矛盾に満ちた―イメージを抱いていた。その声は、「文明ナル日本官員中特ニ憲兵ノ御陰ヲ以テ田舎迄安寧ニ暮シ得ルニ至レリ日本ノ文明ト聖徳トヲ蒙リ之レヨリ一般人民ガ文明ノ進歩ヲ望ムニ至レリ」(『酒幕談叢』12年版、公州憲兵分隊、一八丁)というような文明化賛美から、「併合後税金ノ上納期限其他何事ニ限ラス規則正シク実行セラルゝハ文明ノ政治トシテハ左モアルベキ事ナルベキモ無学ノ吾等ノ考ヘニテハ余リ圧制過キルノ感アリ」(同前、牙山警察署、四丁)というような併合後の苛政への不満まで幅広い。日本の支配を拒否しようとするナショナリズムの萌芽が窺われることは間違いないが、それのみで民衆の精神世界の全てを説明することもできないという印象を受ける。朝鮮民衆が、文明への憧憬、封建的身分制からの一応の解放など、日本の支配様式の「近代」的部分によって一定程度幻惑され、日本の支配を根底から批判しうる論理をいまだ獲得していたとはいいがたかったことも認めねばならないだろう。
 にもかかわらず、彼らは、生活を直接脅かしたり干渉したりする施策には、「朝鮮ハ古来ヨリ道路修繕ニ関シ夫役ヲ命シタル慣例アリタルトモ今回ノ如ク永続ソオテ夫役ヲ命セラレタルコトハナシ日本人ハ・・・・其実ハ朝鮮人ヲ全部殺サントスルノ意志ナリ」(『酒幕談叢』12年版、公州警察署、三丁)とのごとく、鋭く反応し不満を抱いた。このような道路建設のための夫役をはじめ、高米価や増税、あるいは、衛生事業などの「近代的」管理秩序の導入などに対して示している否定的な反応は、生活に根ざした防衛主義的な態度とも呼ぶべきものであり、以後、植民地期全体を通して見られることになる。これはただちに抗日意識にむすびつくものではなかったが、植民地支配政策への不満を通じて抵抗意識への転化への可能性ももつものとしてやはり無視できない力を持っていると考える。
 また、『酒幕談叢』の調査時期は、辛亥革命や第一次世界大戦の勃発など、重要な国際的事件が生じた時期でもあった。これらの事件について、民衆の多くは正確な知識を得ることは難しかったものの、相当に高い関心を示している。そこでの彼らの反応からも、抗日のみではない日本への複雑な視線、そして何よりも自己の生活への影響を基準にして関心の度合いを決定する姿勢を読みとることができる。一見、個人的利害の世界にとどまりそうな民衆の防衛主義的心性が、このように、実際には、しばしば国際情勢に開かれた鋭敏な関心として現れたことも注目しておいてよいだろう。

第248回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会3月9日(日)
多文化教育としての在日コリアン教育
ー日本学校における在日コリアン教育実践の系譜@ー
方政雄
(兵庫県立湊川高校)

@戦後、在日コリアン教育問題は「朝鮮人学校」を擁護する課題として顕在化
 
阪神教育事件(1948年)等、民族教育弾圧に抗い、日本の民主団体や文化人を中心とした連帯は図れたが、日本の教育運動の分野での対応はほとんどなかったといえる。都立朝鮮人学校廃校反対運動(1952年)で、公立朝鮮人学校の日本人教師集団との連帯により日本の教員組合(日教組)運動において朝鮮人学校擁護の課題が運動方針として掲げられ、教育研究運動も関心をよせられた。1953年の日教組の教育研究集会以来、毎年在日コリアン教育に関わる運動と実践の報告と討議が行われたが、同化教育や民族差別意識の壁が厚い中では、教員全体の教育実践とはならず一部の個別実践の範囲で終わっていた。また、教育活動が運動レベルに留まって、日本学校に在校するコリアン生徒に民族的自覚を育てる日常的な教育実践の課題までは行かなかった。「政治」的活動と「教育」実践とは遊離しがちであった。1965年日教組(福岡大会)において、コリアン生徒の民族的育成は民族学校でしかできず、日本人教師は子どもを朝鮮学校の戸口まで連れていくことであるとした。

A日本学校の在日コリアン生徒の生活現実を見据えた教育実践
 
政治課題にみちびかれて教育活動にいたる運動の大きな弱点は、在日コリアンの保護者や子どもの生活現実に根ざし、そこを出発点として教育を進めることを実践の軸に据えきれなかったことにあった。在日コリアンの生きざまに根をおろした教育実践が1960年代後半から、兵庫と大阪を中心に進展し、一つの教育運動として広まって行った。それは一言でいえば、教師が在日コリアン保護者や子どもの生活現実を知り学び、民族的自覚を培い(文化的異化)と同時にコリアンとして生きる決意と進路保障(構造的同化)を与え、日本人の子どもには民族的偏見をなくし、異なる民族や文化への理解を深め、共生の志向を育むものであった。これはいわば、多文化教育(一つの国民社会内の異なった民族集団の共存・共生のための教育)としての方向性を内包していた先駆的な取り組であったといえよう。
 多文化教育としての在日コリアン教育の「志向すべき位置」は図のようになろう。

 【今後の研究会の予定】
6月8日、近現代史・金光旭/辛珠伯
7月12〜13日、滋賀県立大学で在日研究会関東関西合同合宿。関西部会からの報告は、塚崎。詳細別紙。

【月報の巻頭エッセーの予定】6月号(金河元)、7月号以降は、、宇野田尚哉、坂本悠一、張允植、塚崎昌之、広岡浄進、福井譲、藤井たけし、藤永壮、堀内稔、堀添伸一郎、本間千景、松田利彦、水野直樹、文貞愛、森川展昭、山田寛人、梁相鎮、横山篤夫、李景a。よろしくお願いします。

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第3回在日朝鮮人運動史研究会大会ご案内 

■日時:2003年7月12日(土)〜13日(日) 
■会場:滋賀県立大学 
■参加費500円

■スケジュール<7月12日(土)>●14:00〜17:00 大会(於/滋賀県立大学)
報告/古庄正(関東部会)/塚崎昌之(関西部会)「1945年4月以降日本に送られた朝鮮人『兵士』について」/崔ヨンホ(霊山大学国際学部)「終戦直後、仙崎における朝鮮人帰還について」/李ハンチャン(全北大学東洋語文学部)「韓国における1930年代在日朝鮮人文学の研究動向」/鄭ヘギョン(韓国精神文化研究院)「韓国における戦時期強制連行関連の研究と運動について」
●17:30〜21:00夕食・交流会(4000円、学生・海外ゲスト半額、於/滋賀県立大学生協食堂)
<7月13日(日)>朴慶植文庫(滋賀県立大学内)見学/ウトロ地区見学
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<編集後記>
 みなさま、ゴールデンウィークをどのようにお過しになられたでしょうか。少し?遅くなりましたが月報5月号をお届けします。
 7月12〜13日の滋賀県立大学での合宿は、「第3回在日朝鮮人運動史研究会大会」として別紙の通り開催します。これまで朴慶植先生がおられたときに2回合宿を開きましたがそれらをカウントして第3回としました。関東部会より15名、韓国の韓日民族問題学会から7名が参加される予定です。13日には朴慶植文庫見学、午後にウトロ・フィールドワークがあります。奮ってご参加ください。 (飛田雄一 rokko@po.hyogo-iic.ne.jp)

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