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青丘文庫月報・169号・2002月4月1日

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郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>年間購読料3000円
※ 他に、青丘文庫図書購入費として2000円/年をお願いします。
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●青丘文庫研究会のご案内●
※図書館の都合により第3日曜となっています。ご注意ください。

第207回 朝鮮近現代史研究会
4月21日(日)午後1〜3時
テーマ:「済州道華僑の昨日・今日」
報告者:辛在卿

第238回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会
4月21(日)午後3〜5時
テーマ:「草創期の阪神朝鮮初級学校:第2次朝鮮学校閉鎖令後の分校化問題をめぐる対応を中心に」
報告者:松田利彦

会場:青丘文庫(神戸市立中央図書館内)

<巻頭エッセー>
指紋押捺拒否闘争のビラ 飛田 雄一

 80年代に在日朝鮮人を中心とした指紋押捺撤廃のための運動が広範に展開された。もう20年ほど前のことなので歴史研究のテーマとなるようである。青丘文庫の研究会でも昨年4月金隆明さんが「指紋押捺制度と在日朝鮮人の人権」をテーマに報告している(月報160号参照)。先日、ハワイからこのテーマで来客があった。日本からハワイ大学に留学中のSさんで、社会学の立場から指紋押捺拒否運動の研究をされている方である。
 私も当時この運動に関係して「兵庫指紋拒否を共に闘う連絡会(略称/兵指共)」の事務局長もつとめた。尼崎で指紋押捺を拒否した金成日さんが逮捕され警察署内で強制具による指紋押捺を強要されたことが大きな人権侵害あると大きな社会問題になったこともある。この件をスクープした朝日新聞阪神支局の小尻記者が翌年殺害されたが、その事件が今年5月3日に時効(15年)を迎えると聞いて、小尻記者と個人的にも親しかった私は、特別の感慨をもって時効のニュースを聞いている。
 80年代の闘争の記録を私はそれなりのもっている。兵指共のファイルが7冊、それに「指紋押捺各地のビラ」と題するファイルが10冊である。この資料を使って寺島俊穂さんが「指紋押捺拒否の思想と運動」という論文を「紀要〈大阪府立大〉43(人文・社会科学) 1995年 3月」に書いてくださった。良心的兵役拒否の思想との関連で論じられたものでとてもいい論文である。私の資料も役にたったな、と喜んだものだ。今回のハワイ大学Sさんの来訪は時間的制約からその資料すべてをコピーする時間がなかったが、また、新しい観点からの論文を書いてくださるものと期待している。
 青丘文庫は、神戸市の予算の関係から新しい書籍を購入するということができないが、我々会員がそれぞれに書籍・資料をもちよることで充実をはかっている。@韓皙曦先生の友人である今井鎮雄先生(神戸YMCA顧問)のお世話によって『東亜日報縮刷版』は、最近のものまでロータリークラブが購入、Aまだ体系的にはなっていないが韓国の歴史研究の雑誌を分担して購読しそれを最終的には文庫に寄付、B青丘文庫月報購読料と別に有志が年間2000円を出しあい図書購入費用とするなどである。
 今回、ハワイ大学Sさんの来訪あるいは金隆明さんの発表を機会に「ビラ」のような資料の価値について考えさせられたが、私の指紋押捺ビラ資料も青丘文庫に寄付しておこうと思う。かならずや歴史研究の一助になるものと信じている。みなさんのご利用を期待したい。

第236回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会1月13日(日)
日本人教師の在日朝鮮人認識を考える 佐藤典子

 教員として在日朝鮮人に関わる教育に積極的に関わるようになったのは、十年余り前である。語学から歴史等々へと関心が広がる中で、小学校では「本名」を名乗ってきた生徒が中学では「通名」にかえるという出来事がきっかけだ。中学進学を前に、周りの友達の説得にもかかわらず「通名使用」を頑として主張したと聞かされた。そして、「問題なのは私たち中学校の教師の在り方」と考え、まわりに訴えた後、微々ながら研修会や生徒に対する取り組みが始まった。
 私の勤務する大阪市では、「本名を呼び名乗る」をスローガンに、公立学校での民族教育をすすめようという運動の歩みは短くはない。だが、一部の学校を除けば、在日朝鮮人生徒に対する教師の関心度は(少なくとも当時は)低かったといえよう。また、自分自身もその一人。育った地域は日本人世帯が指折り数えられる在日朝鮮人の集住地域であったにもかかわらずである。そこは東大阪市に隣接した生野区東部、敗戦後は「石鹸町」と呼ばれ、我が家もその石鹸を分けてもらい糊口をしのいでいたという。
 そして、周りの教師との関わりの中で、日本人の意識の中に潜在する「朝鮮人差別」の根深さを改めて考えなおす幼い頃の出来事が鮮明に蘇った。近所の友達と喧嘩、負けた悔しさに「チョウセン(ジン?)のくせに!」という言葉を吐いたことだ。その友の姉が我が家に怒鳴り込んできて、私は父から凄まじい激怒をうけた。父は関東大震災を経験した昭和初期の右翼活動家、戦後は保守政治の裏の実力者で、近所の在日朝鮮人の人から相談をうけて動くこともあった。親から朝鮮人を侮蔑する言葉一つ聞いたことはない。
 現在も同じ地域で暮らしており、在日朝鮮人の友人や近所の人から戦後の昔語りを聞く機会が多い。その中で痛切に感じることは、日本人社会における朝鮮人差別の歴史を、日本人自らの問題として捉え直す作業をするべきだということである。
 自分自身をを朝鮮や在日朝鮮人について理解をもつ者という立場に安直に置いてはならないと考えつつ、前記の作業に携わっている。

第205回 朝鮮近現代史研究会2002年2月10日
済州島の巨大軍事地下施設−「本土決戦」における済州島の位置づけ−
15年戦争研究会・塚ア昌之

 2001年4月、済州島4.3事件の跡地をフィールドワークし、セレモニーに参加するツアーに参加した。その最終日の4日は「ピースあい」(茨木市の海軍地下壕保存の会)のメンバーたちと、済州島南西部に残る日本軍の軍事施設跡の見学・調査を行った。そして、モスルポの海軍航空基地の高角砲が据えてあった丘の下の巨大な地下壕と出会うことになる。案内してくれた4.3研究所の人もその大きさを認識できていなかった。トンネルは網の目状に広がり、曲がり角を数えながら進んだが、どこにも明かりは見えない。出てこれなくなる恐怖で引き返した。案内の人ともう一度調査をしようということで別れた。
 日本に帰り、2回4日にわたって防衛庁で資料調査を行った。その結果、3枚の貴重な地図の他に、「済州島航空基地 隧道 57,000u」と記した資料を発見することができた。日本国内で最大規模といわれる横須賀浦郷の地下壕が約35,000uである。つまり、日本軍が作った最大の地下施設が済州島に存在することになるのである。また、陸軍も山の中腹を中心に総延長32kmに及ぶ地下道を作っていたことも判明した。米軍が上陸する可能性が最も高いと予想された志布志湾が16kmである。その他にも多くの「本土決戦」用の施設が作られたことが判明した。兵力も沖縄戦を上回る84,000人が集められようとしていた。
 なぜ、これほど済州島が戦略的に重要視されたのであろうか。@米軍の九州上陸作戦を阻止するための特攻機の出撃基地とする。A米軍が九州北部上陸を狙う場合、前進基地を作るため済州島に上陸する可能性が高く、それを阻止する。B米軍の艦船等が日本の大陸からの補給路を遮断するため、朝鮮海峡を突破して、日本海に入ることを阻止する。といった理由が考えられる。
 では、この巨大な地下壕を誰が掘ったのであろうか。陸軍では第408特設警備工兵隊約500名、特設勤務第四中隊〜第十三中隊・特設陸上勤務第110中隊6930名、独立工兵第126大隊・第127大隊1780名、第12工兵隊1800名といった部隊が、主に地下壕建設にあたったと考えられる。これらの部隊に朝鮮人が多数含まれるであろうことは部隊の解散地点から類推できることを明らかにした。また、海軍は鎮海警備府施設部201設営隊がトンネル建設にあたった。これも日本国内の海軍の設営隊の例から見ても、その下で朝鮮人が使われた可能性が高い。それ以外にも「半島」からの徴用者(特に鉱山労働者)、済州島民の勤労動員の人たちが働いていることを戦後の回想録等から拾い出した。そして、日本はアメリカ軍上陸のときは、これらの地下壕を最後の拠点としながら、住民を戦闘に参加させることを計画していた。
 しかし、まだ地下壕の全容が明らかになったわけではない。まず、正確に記録化する必要がある。また、壕を掘削した人々の労働実態の把握、犠牲者の確認等も急がれる。そのためには、済州島日韓共同調査チームの結成を呼びかけたい。日本軍が作った最大の地下壕の真実を明らかにすることは、お互いの歴史観の溝を少しでも埋めていく作業になるに違いない。

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●サンフランシスコ講和条約発効50周年・朝鮮史セミナー
  不条理な在日朝鮮人政策の出立
   ―サ条約と在日朝鮮人の戦後補償・法的地位―
日時:2002年4月27日(土)午後2時〜4時
講師:竜谷大学教授 田中宏氏
会場:神戸学生青年センターホール(阪急六甲下車、北東徒歩2分)
参加者:800円(含税)

【今後の研究会の予定】
5月12日(日)(在日・朴球會<予定>、近現代史・李景a)

【月報の巻頭エッセーの予定】/2002年4月号(本間)、以降は、藤永、佐野、梁永厚、文貞愛、藤井幸之助、金河元、高木、森川。※締め切りは前月の15日です。よろしくお願いします。

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編集後記

 ことしの桜は例年になく早く咲きました。六甲の山桜も早々と咲いています。先日、摩耶山に登って来ました。4月初めの六甲山全山縦走に失敗してからトレーニング不足を反省し、最近はよく山に登るようにしているのです。その摩耶山の山ツツジが本当にきれいでした。麓のそれはもう枯れかかっていましたが、山頂近くのものは本当にきれいでした。5月3日にまた摩耶山にキムチチゲハイキングにいきます。みさなん、健康のために山に登りましょう。申込みは飛田まで。
 今号の月報は、かなり発行が遅くなりました。研究会が定例の第2日曜から第3日曜になったからとはいえ失礼しました。また今後とも、よろしくお願いします。2002年度の月報購読料3000円未納の方は送金をよろしく。また、巻頭エッセーにある図書購入募金2000円もよろしくお願いします。(飛田雄一 rokko@po.hyogo-iic.ne.jp)

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