青丘文庫月報・163号・2001月10月1日

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●青丘文庫研究会のご案内●

第201回 朝鮮近現代史研究会
10月14日(日)午後1〜3時
テーマ: 「朝鮮開港直後の東莱事件、亀浦事件、安辺事件」
報告:金慶海

第233回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会
10月14日(日)午後3〜5時
テーマ「朝鮮人強制連行・強制労働の概念について
−国連国際法委員会、国連人権小委員会、ILO総会勧告等から」
報告者:洪祥進

会場:青丘文庫(神戸市立中央図書館内)

<巻頭エッセー>
対馬から韓国を望む 浅田朋子

 九月のはじめ、‘快晴’を願って対馬に渡る。日本からお隣の韓国が見えるということで前々から一度訪れてみたい場所だったが、愛媛に帰省したついでに行ってみることにした。
 午前十時頃福岡の博多港から出発したフェリーは、壱岐の郷ノ浦を経由し、昼を過ぎて対馬の厳原に到着する。波の高い対馬海峡の旅だった。厳原の港で最初に目についたのは、韓国の国旗をはためかせている高速船だった。
 私の買った対馬のガイドブックには「韓国をはじめとする大陸文化が交差する対馬」とあったので、この韓国の高速船を目の当たりにして、以前行ったことのある中国側の北朝鮮との国境の町「図們」を思い出した。だが期待は大はずれ。街を歩けども、ちらほらハングルが目に入るくらいで、ここが本当に国境の町かと疑ってしまう。厳原の家並みは日本のどこででも見ることのできるものだし、それに加えて武家屋敷跡の石垣の塀が、あまりにも日本の城下町の面影を残している。
 そんななかで、江戸時代、対馬藩で外交官として活躍した雨森芳州という人物を知った。芳州会会報『交隣』を厳原町資料館で売っていた。その中に「教育家としての雨森芳州」として紹介されていたが、対馬藩主に対し朝鮮外交の心得を説いた『交隣提醒』の中で芳州は、「朝鮮の風俗・習慣を知り、これを尊重することが大切である」と繰り返し述べている。現在、日本の歴史教科書や首相の靖国神社参拝をめぐって朝鮮半島や中国との関係はギクシャクしているが、芳州が説いた「誠信の交わり」について今一度考えてみるべきだろう。
 厳原町をあとにして、上対馬町に向かう。山と山の合間を縫うようにバスは走っていく。着いた比田勝でも、やはり国境の町という実感は涌かなかった。韓国展望台に行く予定の日は、北上する前線の影響で曇っていた。宿の人にも今日は見えないだろうと言われ、半ばあきらめながら展望台に向かった。いざ展望台への坂を登りきると、海峡を隔て韓国の山々が目の前に迫った。持参した双眼鏡を取り出し夢中でのぞき込んだ。こんな曇りの日でも、建物の輪郭まではっきりしている。たしかに対馬は国境の町だ。釜山までわずか49.5km、高速船だと約1時間でたどり着く距離である。
 近いがゆえに歴史にも暗い影を落としたが、大陸に一番近いこの対馬で、善隣友好のために全力を尽くした人物がいたことを、忘れずにいたい。

第199回 朝鮮近現代史研究会
満洲国における朝鮮人「親日派」――「民族協和」と「内鮮一体」との矛盾のなかで――
                                   廣岡浄進

満洲国のなかで朝鮮人たちが取ったさまざまな行動の全体像を把握するためには、満洲国の支配下の地域での朝鮮人「親日派」の実態、論理、はたした役割、そして解放後との関連を考えることも必要であろう。朝鮮史における「親日派」研究の課題については、すでに実態解明へ向けてのいくつかの問題提起がある。筆者はその継承と発展とを目指す。
 本報告で検討の対象としたのは、満洲事変以前から活動していた「親日団体」とされる“朝鮮人民会(民会)”と、民会が合流して満洲国の国民動員組織となった“満洲国協和会(協和会)”とである。満洲国の支配下にあった朝鮮人の統合をになったのが、民会であり、協和会であった。それらは、必ずしも上からの統合−総動員をになう団体としてのみ役割をはたしたのではなく、制約された情況のなかでしばしば独自の――「民族的」とも見て取れそうな――要求を掲げて植民地権力との交渉をこころみるのである。
 1936・37年の両次の条約によって満洲国における日本の治外法権が撤廃され、満洲国は「独立国家」の体裁を整える。このとき日本は「内地人」の教育行政権等を日本側に留保しつつ、朝鮮人教育行政権については一部を留保したほかは満洲国に委譲したのだが、その決定過程において民会側の反対運動を惹起せずにはすまされなかった。35年12月、関東軍側は、朝鮮人教育行政を満洲国側に一律委譲する案をうちだす。朝鮮人にたいする満洲国側の支配を確立し、「五族協和」の名の下に彼らの「日本人」としての権利主張を抑圧せねば満洲国支配が成り立たないと考えたのである。新聞報道に衝撃をうけた民会側は、奉天に本部を置く“全満朝鮮人民会連合会”を中心に、反対運動の組織化に着手する。だが関東軍側は各地の日本領事館側を通じてすぐさまこの動きを抑えこみ、翌年1月には民会側に「内鮮人差別待遇」との不満をくすぶらせつつも反対運動自体は立ち消える。
 この動きは、朝鮮総督府側と関東軍側との取引の材料となったようである。先行研究で明らかにされているとおり、1936年10月には双方のトップ(南、植田)による会談で、満鉄が経営していた14校の留保を除いてすべての朝鮮人教育を満洲国側に委譲する、それと引き換えに朝鮮総督府教員・官吏が満洲国に入ることが確認された。つまり総督府側では、満鉄沿線の朝鮮人「知識階級/指導階級」を懐柔する必要性を認め、またその懐柔にさえ成功すれば朝鮮人世論への対策は充分であると判断したのである。
 さて、上記の治外法権撤廃にともなって民会は解消することとなり、これにあわせて国民組織へと改組された満洲国協和会に、民会の組織は合流する。日中戦争が総力戦としての様相を見せるなかで協和会は満洲国の地方支配への民衆動員をにない、民会の幹部たちは朝鮮人工作をもってその一翼をになうことになる。
 協和会は年に一度“全国連合協議会(全連)”を開催した。議会が設置されなかった満洲国において被支配民族が意見表明をできるほとんど唯一の場であり、ガス抜き装置としての役割をはたしたとされる。同時に、満洲国政府と協和会との、地域把握をめぐる対立が顕在化する場でもあった。朝鮮人協議員の発言もまた、ここに確認できる。
 全連には1939年から44年までの毎年、朝鮮人教育に関係する議案が提出されており、40年度以降は討議の場が確保される。朝鮮人協議員たちはくりかえし朝鮮人教育の置かれている状況の劣悪さを訴える。42年と43年の議事録では、日本軍への朝鮮人徴兵制の適用決定にともなう混乱・不首尾が報告されるとともに、その改善策として、「皇民化」教育を貫徹するために、日本側の行政系統のもとに在満朝鮮人教育を「内地人」教育と一元化して充実させるべきという主張がなされている。朝鮮人協議員たちは、その公的言説において、「内鮮一体」という朝鮮植民地統治のイデオロギーを拠り所に、徴兵制の適用を「内鮮一体」の到達点と位置づけ、そこへ至る教育の「内地人」との平等を要求したといえる。だが、全連でのこうした提起は、満洲国側・関東軍側から一蹴されつづけた。
 満洲国の体制内において、在満朝鮮人「親日派」は、朝鮮人が「日本帝国臣民」であり朝鮮総督府が「内鮮一体」というスローガンを掲げていることに根拠をおき、在満朝鮮人が「内地人」と同等の待遇をうけることを求めて処遇の改善を図った。その主張は、しかし、満洲国の「理念」とされた「五族協和/民族協和」を否認するものであったために、満洲国・関東軍側に受け入れられることはありえなかった。朝鮮人徴兵制の実施という局面を迎えて、植民地統治の二つのスローガンがそれぞれに抱えていた虚構性、そして相互の間に持っていた原理的矛盾が、その溝の深さをいよいよ露わにしていくのである。

インフォメーションコーナー

記録映画「百萬人の身世打令」
10月20日(土)
@11:30A16:00
宝塚市立東公民館 1800円
主催:たからずか民族まつり実行委 TEL090-1583-4801

在日外国人人権セミナー
二重国籍・参政権を考える集会
講師 岡部一明氏
10月20日(土)18:00
三宮勤労会館 500円
主催・在日コリアン人権協会兵庫 
TEL-FAX06-6492-3272

神戸電鉄敷設工事藍那トンネル事故65周年
・モニュメント建立5周年/神戸電鉄敷設工事朝鮮人犠牲者追悼集会
10月21日(日)
11:00 神戸電鉄藍那駅前集合
11:30 藍那トンネル前追悼集会
13:00 モニュメント前追悼会
14:00 烏原貯水池で焼肉の会
参加費:1500円
主催:神戸電鉄敷設工事朝鮮人犠牲者を調査し追悼する会(代表:徳富幹生、学生センター内)

山陰線敷設工事で亡くなった朝鮮人労働者の名を刻んだ
久谷の石碑・建立90周年記念追悼集会&フィールドワーク
11月23日(金)〜24日(土)
※ 神戸出発。浜坂町近辺の民宿に泊りカニ料理を食べます。
参加費:14,000円(予定、バス代・1泊2食込)
主催:兵庫朝鮮関係研究会、兵庫県在日外国人教育研究協議会、(財)神戸学生青年センター

神戸学生青年センター・朝鮮史セミナー
「アジア太平洋戦争と植民地朝鮮−開戦60周年を迎えて」
12月1日(土)14:00
講師:水野直樹氏 525円
於/神戸学生青年センター

【今後の研究会の予定】

2001年11月11日(日、在日・梁相鎮、近現代史・堀内)、

    12月9日(日、在日・佐藤典子、近現代史・梁永厚)

【月報の巻頭エッセーの予定】

2001年11月号(金森)12月号以降は、金慶海、坂本、伊地知、田部、飛田、李昇Y、本間、藤永、佐野、梁永厚、文貞愛、藤井幸之助、金河元、高木、森川。

※締め切りは前月の15日です。よろしくお願いします。

編集後記

          (飛田雄一 rokko@po.hyogo-iic.ne.jp)

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