青丘文庫月報・158号・2001月3月1日

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第195回 朝鮮近現代史研究会
3月11日(日)午後3〜5時
テーマ: 「李承晩と吉田茂」
報告者:李 景 a

第228回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会
3月11日(日)午後1〜3時
テーマ:「戦前京都における朝鮮人キリスト教会」
報告者:鄭 富 京
会場:青丘文庫(神戸市立中央図書館内)

巻頭エッセー(お休みです)

第194回 朝鮮近現代史研究会
2001年1月14日(日)
朝鮮総督府編纂『訂正修身書』について
    −過渡期の教育方針に関する一考察−    本間 千景

 1910年「韓国併合」から1911年朝鮮教育令が発布されるまでの一年間の過渡期に、朝鮮人に対してどのような教育方針がとられたのだろうか。本報告では、学部時代に編纂された『学部編纂修身書』と、1911年3月に刊行された『訂正普通学校学徒用修身書』を比較分析することにより、この点を明らかにしようとするものである。
 「韓国併合」に先立つ「保護国」期には、韓国学部の編纂した教科書と検定及び認定した教科書が使われていたが、1910年11月、朝鮮総督府学務局は『旧学部編纂普通学校用教科書竝ニ旧学部検定及認可ノ教科用図書ニ関スル教授上ノ注意并ニ字句訂正表 附録祝祭日略解』を官公私立普通学校に配布し、さらに7種の教科書に訂正 を加えてこれを出版した。これらの訂正教科書にどのような変化が加えられたのか、あるいはどのような記述が残されたのか。少なくとも『訂正修身書』に関しては、これらを詳細に分析すると、非常に「丁寧」に訂正・削除・加筆されていることがわかる。「併合」から教育令制定の間、学務局編輯課は教育方針の決まらないままに旧来の教科書を訂正しなければならない。まず『学部編纂修身書』との連続面であるが、朝鮮の「弊風」として、「衛生について無知」である、「労働を厭う」、あるいは「迷信を信じるな」などの記述が残されていた。そしてこれらの記述は朝鮮固有の「弊風」として記述され、「文明」=日本との対比により際立たせ、「朝鮮は遅れている」という印象を植え付ける意図があった。しかしながら、「労働を厭うな」「迷信を信じるな」等の「朝鮮固有の弊風」とされた記述は、同時期の日本の国定教科書から題材をそのまま得たものであり、さらに時代が下っても国定教科書の中に残されていた。
 次に断絶面をまとめると、第一に、日本の政策を天皇の「恩沢」と結びつけることにより、その「恩沢」に対し報いることが求められていたということである。ただし、『教化意見書』に「日本民族ハ天皇ニ忠ナル所以ハ唯ニ其恩沢ヲ受クルニヨルト云フガ如キ浅薄ナル理由ニ基クニアラズシテ其心情ノ奥底ニ深ク且鞏クシテ到底断絶スベカラザル根蒂ヲ有スルモノナリ」とされていることから、日本人に対して求められている「忠良なる臣民」と同質であると解釈することはできない。ここで重要な点は、総督府の政策を「恩沢」として及ぼすことにより、「遅れた」朝鮮を「進んだ」日本が導くという構図が、教科書の中に示されているということである。この構図が、「保護国」期には「独立自営」と表現され、「併合」後は日本の政策と天皇の「恩沢」が結び付けられ、天皇が「文明への先導者」として朝鮮人を導くといったイメージが扶植された。つまり、この構図は記述としては断絶でありながら、方針としては連続しているということである。
 第二に、徹底して「独立」の語が排除されているということである。逆に言えば『学部編纂修身書』がこの点についての曖昧さを残したのである。その理由の一つとして、日本の表向きの方針としての韓国「独立支援」が挙げられるだろう。もう一つは明治期日本で使用された教科書を単純に流用しようとすれば「合心協力」して「独立」を達成する内容が含まれざるを得なかったということが考えられる。そして「独立自営」は「併合」により朝鮮人にとって「不穏思想」となった。「併合」後、帝国日本の統治に対して最も障碍をなすものは、朝鮮人の「民族的自覚心」であるとされていた。光宗に諌言した賢臣徐弼や、強国と対峙しながら心を一つにして弱小国を守る刎頚之交の逸話の削除等、「民族的自覚」への「憂慮」の表れであったとみなすことができるだろう。
 最後に、のちに朝鮮教育令に導入される教育勅語の旨趣が、『訂正修身書』編纂時には反映されていなかったということである。1911年2月5日付『教育時論』における寺内総督の「教育勅語は本土に於けるが如く、取り扱はず寧ろ戊申詔書によりて、修身を説」くとの発言や、同じく3月5日付『教育時論』での関屋学務局長の「現在の学校にして別に弊害なき限りは(中略)来年度に於ても別に何らの特別計画を為し居らず」との発言から考えても、1911年3月の時 点で教育方針として教育勅語を掲げることはなかったと結論でき、『訂正修身書』も教育勅語導入の方針で編纂されていなかったといえよう。

 今後の課題としては、他の訂正教科書との関連を検討し、さらに第一次朝鮮教育令下の教科書との比較により、初めて訂正教科書の位置付けがなされるべきであろう。

第228回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会
2001年1月14日(日)
北但馬大震災と朝鮮人    金 慶 海

T。大震災が発生
 関東大震災から二年後の1925年5月23日午前11時すぎに、マグニチュ−ド7・0の地震が兵庫県北部の北但馬地方の城崎温泉地や豊岡町を襲った(ちなみに、あの阪神・淡路大震災は7・2)。
 「新城崎町消防沿革史」によれば、豊岡町の場合、2,178戸の内、全壊・半壊などが2,124戸に達し、町の人口2,097人の内、死亡・負傷者数は380人の被害を蒙った。ただ、昼間だったので、犠牲者数が少なかったのが不幸中の幸いというえようか。

U。朝鮮人たちの自己犠牲的な救援活動と県知事の表彰
 地震発生時、朝鮮人を取り巻く状況は厳しかった。
 まず、「恐怖・デマ・流言」が飛びかった。『…播但線で和田山駅に着きました。京都方面から山陰線で帰ってきた学生もたくさんいました。…朝鮮人たちがあばれるかもしれないと大騒ぎでした。剣道部や柔道部の連中が先頭に立って、木刀や柔道衣をかかえてものものしい雰囲気だったですよ。もちろんウソでしたし、汽車も豊岡まで着きました。…暴動どころか、献身的な活躍ぶりだったことがわかる。』(「新城崎町消防沿革史」より)。
 同時に、軍隊と警官隊が治安出動している。関東大震災時の各種不祥事を連想して郡長が、舞鶴、福知山、姫路、岡山、鳥取に駐屯の軍隊や軍艦に出動を申請、その日の夜から軍隊や憲兵が次々に豊岡町などに入り、秩序維持をはかった。25日には、朝鮮語に通じる警部補一名巡査11名が派遣され、朝鮮人たちの警戒に当った。
 そのようなきびしい状況の中で、朝鮮人たちは献身的な救援活動を行っている。
 この大震災があった時、朝鮮人労働者たちがこの地方を北流する円山川の改修工事に従事していたが、彼らは自分の身の危険をもかえりみずに救援活動をした。
 その活動状況を最初に伝えたのは、二日後に『奉仕的に働く鮮人/地方民から感謝されて居る』の見出しで同年5月25日の「神戸新聞」。素速い報道。同紙はつづけて、29日には、『鮮人三十余名が猛火を冒して/阿鼻の巷に死を賭した働き/家の下敷きや火に追はれて泣き叫ぶ/百名ちかくの豊岡町民を救い出した/隠れた美挙が初めて判った』の見出しで大きくその実態を伝える。外に、「大阪毎日新聞」と当時あった「神戸又新日報」も、朝鮮人たちの活動について報じている。この震災のことを綜合的にまとめたのが、「乙丑震災誌」(1942年、城崎郡豊岡町発行)。
 この「…誌」によれば、兵庫県知事が震災一年後に、最高30円から10円までの賞金と感謝状を渡したのは、16の団体と個人。その内、洪承俊、朴在祥、金化祥、文三貫、裴三鶴、姜信俊の6名の朝鮮人のなまえがあり、彼らの活動状況が詳しく紹介されている。
 彼らの内、裴さんのご子息は現存しているが、自分の父親がそんな救援をしたことはしらないでいた。

広告/『新コリア百科−むくげの会30周年記念論文集』
明石書店、530頁、定価4600円(税別)

序 30周年記念論文集によせて 姜在彦
1 摂津風土記散歩
1−1 西摂に行基の足跡を追う 寺岡洋
1−2 百済王氏と難波−摂津・百済郡を歩く 寺岡洋
1−3 吉士集団と三田・基志遺跡−古代の外交官の故郷 寺岡洋
2 朝鮮と日本・歴史あれこれ
2−1 大倉山公園散歩−大倉喜八郎と朝鮮 堀内稔
2−2 追悼歌の歴史的考察 山根俊郎
2−3 新聞紙上にみる創氏改名―『毎日申報』を中心に― 金英達
2−4 天皇の死と朝鮮 飛田雄一
2−5 天皇の「お言葉」問題、その後 飛田雄一
3 阪神間の朝鮮人の足跡
3−1 神戸・高架下の朝鮮人スラム 堀内稔
3−2 関西普通学堂の設立−戦前尼崎中国人児童教育の一断面 堀内稔
3−3 新聞記事にみる武庫川改修工事と朝鮮人 堀内稔
3−4 1961年・武庫川河川敷の強制代執行 飛田雄一
4 中国の朝鮮人と延辺事情
4−1 朝鮮義勇隊通訊を読む 鹿嶋節子
4−2 中国における朝鮮族の人口事情について 佐久間英明
4−3 延辺朝鮮族の経済事情(1)延辺 佐久間英明
4−4 延辺朝鮮族の経済事情(2)琿春 佐久間英明
5 朝鮮とキリスト教
5−1 日帝の「神社参拝」強要 信長正義
5−2 L.L.ヤングと在日朝鮮人キリスト者 飛田雄一
5−3 解放後の韓国教会と民主化運動 信長正義
6 交流の食文化
6−1 東アジアの養蜂と蜂蜜食品−養蜂の伝来と菓子作り 佐々木道雄
6−2 東アジアの香辛料の歴史−胡椒と生姜を中心にして 佐々木道雄
6−3 サツマイモとジャガイモ−飢餓と豊饒の歴史 佐々木道雄
7 クローズアップ現代−韓国と日本
7−1 韓国プロ野球11年間 山根俊郎
7−2 韓国のロングセラー商品 山根俊郎
7−3 韓国の新国籍法と二重国籍者の国籍選択 金英達
7−4 あなたが韓国人になる方法 金英達

【今後の研究会の予定】

2001年4月11 日(日) 未定(近現代史)、金宏明(在日)
以降、毎月第2日曜日です。(8月はお休み)

月報の巻頭エッセー
2001年4月号(堀内)、5月号(出水)、6月号(姜在彦)、7月号(浅田)、9月号(金森)、10月号(金慶海)、11月号(坂本)、12月号(伊地知)12月号(田部)、2002年(ワールドカップの年!!)1月号(飛田)、2月号( 李昇Y)、3月号(本間)、4月号(藤永)、5月号(佐野)、6月号(梁永厚)、7月号(文貞愛)、9月号(藤井)、10月号(金河元)、11月号(高木)、12月号(森川)※締め切りは前月の15日です。よろしくお願いします。

編集後記

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