青丘文庫月報・151号・2000月7月1日

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●青丘文庫研究会のご案内●

第189回朝鮮民族運動史研究会
7月9日(日)午後1〜3時
テーマ: 「大韓民国建国初期における反共体制の構築過程―農村統制政策を中心に―」
報告者:藤井たけし

第224回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会
7月9日(日)午後3〜5時
テーマ:「韓国皇太子の“人質留学”」
報告者:金慶海

会場:青丘文庫(神戸市立中央図書館内)

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巻頭エッセイ
韓国所感 金森 襄作

 個人的なちっちゃな小さな所感を一つ。
 五月の連休韓国を訪れ、光州から大田まで「88高速道路」で横切った。秘境の地「茂朱九千洞」を訪れんと、二日間のバス旅行をした30年前が思い出され、世の変わりの早さに胸ささるものもあったが、それはさておき、4−5時間、私の目は、車窓の景色に釘づけになっていた。当時は食糧難の時期、旅に出て、車窓に延々と映る細い曲がりくねった松と、その中に点在する墓の丘陵地を(日本に比較できない程多い)見る度に、「もったいない」と思ったものだ。返る言葉はいつも「墓地は必要。水がない。痩せて畑にならない」だった。その丘陵地が今度は、ナシ、クリ、リンゴの若木の林に変わっているではないか。谷間の小さな田んぼのあちこちにビニールハウスが建てられ、野菜が栽培されている。細く曲がった段々田んぼは田植えを前に水がはられ、日本の30年前の発動機型小型耕耘機で40−50歳ほどの農民が泥かきをし、畦道では子供がかけっこをしている。
 同じ山里の私の田舎の百姓屋の半分は、ほかされ朽ち果てている。わずか5−6反の田んぼに、70過ぎたじいさんが大型トラクター、田植機、コンバインで、米だけを作っている日本に比べ、どれほど健全なことか。確かに経済的には苦しかろう。しかし「韓国の農村はまだ生きている」と実感せずにはいられなかった。失業者が農村に返りはじめているという。百姓をばかにしていた息子が大学を出ても職はなく、実家に返る者も増えてきているともいう。
 車中の一人はいう。「この十年、韓国は狂っていたんじゃ、いまの姿が本当の韓国なのじゃ」失業中だという男はいう。「今はドン底、自分の足でなんとかはいあがらなくては」その顔にさほどの悲愴観は感じられなかった。ひょとして、この明日をめざす肯定的志向と捨て身的努力が南北首脳会談実現の源なのかもしれない。ともかく、この十余年間でいちばん楽しい旅だった。

第223回 在日朝鮮人運動史研究会&第187回 朝鮮民族運動史研究会
2000年5月14日(日)
宇治・大戸川水力発電所フィールドワーク            浅田朋子

 今回のフィールドワークは、併合前後の在日朝鮮人がテーマである。新聞報道によれば、1910年頃におこなわれた宇治川及び大戸川の両水力発電所工事に、朝鮮人が従事していたという。
 この記事をもとに、朝十時JR石山駅に集合し、大まかなスケジュールの説明があった後、一行は三台の乗用車に分乗して、最初の目的地である宇治川水力発電所(以下宇治川水電)を訪れる。
 宇治川水電について、当日配られた資料をもとに大まかに説明しておこう。
 ・工事計画 水路延長約11km(滋賀の南郷洗堰〜宇治の平等院対岸)
      隧道12ヶ所(最長第7号隧道3015m)
      隧道 幅・高さ約6m
      有効落差 61.95m
      出力2,7630kw
 ・土木工事の請負業者(澤井組、鹿島組、大倉組、大林組など)
      1908年末工事開始
      1912年完成・発電開始
 ちなみに、当時関西で最大の蹴上発電所が4800kwだった。規模の大きさがうかがわれる。
 京都日出新聞や大阪朝日新聞の記事から、当時朝鮮人がこの宇治川水電工事に就労していたことが分かるが、このことについては、小松裕, 金英達, 山脇啓造編「『韓国併合』前の在日朝鮮人 」で既に紹介されているので詳しい内容は省略する。記事からは、工事に関わった朝鮮人が住んでいた場所、朝鮮人労働者の募集方法、労働賃金などを知ることができる。
 フィールドワークでは、瀬田川からの水の引入口や、隧道の入り口を案内してもらった。今回は宇治川をはさんだ平等院の対岸にある宇治川発電所まで行くことはできなかったが、水の流れのはやさや水路の深さをまのあたりにすると、実際どれくらいの勢いで水が落ちていくのか見てみたくなった。
 南郷洗堰で昼食をすませ、次の目的地である大戸川発電所へ向かう。この発電所は、1909年から11年にかけて工事が行われた。宇治川水電より規模は800kw発電機が2機だけで、規模は宇治川水電より小さい。明治42年10月15日付の大阪朝日新聞によると、「韓国慶尚道清川郡栗田村申壮洞週彦金長述の三人は目下工事中の江州大戸川の水電工夫として雇はれ云々」とあり、ここでも朝鮮人が働いていたようだ。
 大戸川水電では、周辺の様子を自分の足でじっくり確かめることができた。まず、74mの落差を登る。当然ながら水の流れとは逆の方向に歩いていくことになる。2km程と聞いていたので、大した距離ではないと思っていたが、山の斜面の裾を通っている水路はくねくね曲がっているため、実際に歩いた距離は倍くらいあったかもしれない。この場所は蛇がでることで有名らしく、途中何度か出会った。アーチ型の隧道は煉瓦づくりで、なかなかりっぱなものだった。アーチのてっぺんに当たる煉瓦は最後にはめこむようだが、相当な技術を要するらしい。歩きながら自分なりに当時の工事の様子を思い浮かべてみたが、水路に横たわる大きな岩をどのようにくりぬいたのかがなかなかイメージできなかった。これまで下の方に大戸川を眺めながら歩いていたが、終点の取水口でやっと水路と川が同じ高さになった。ちょうどこのとき、大雨が降りだした。
 余談だが、先日丹波マンガン記念館を訪れた。時期や工事の目的は違うものの、山を掘っていくという点で宇治川水電工事と似ているところがある。記念館の人は、「ここで仕事をしている人は一日中日光に当たらないので、肌の色が真っ白だった」といっていた。思わず宇治川水電工事の坑夫たちも色が真っ白だったのだろうかと想像してしまった。やはり、歴史のイメージをふくらますという点で、フィールドワークがとても大切だということを知った。

第224回 在日朝鮮人運動史研究会/2000年6月11日(日)
文化財保護法による「戦遺保存」―強制連行遺跡との関連で― 飛田 雄一

「文化財保護法」(1950年5月30日法律214号、最終改正1994年6月29日法律第49号)では、第2条(文化財の定義)に、4「貝塚、古墳、都城跡、旧宅その他遺跡で我が国にとって歴史上又は学術上価値の高いもの」という規定がある。これに関する具体的な基準として、「国宝及び重要文化財指定基準、特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準」(1951年5月10日、文化財保護委員会告示第二号)がある。その中に、「史跡/2.都城跡、国郡庁跡、城跡、官公庁、戦跡、その他政治に関する遺跡」があるが、その「戦跡」は、1996年2月9日文部省告示第六号により「古戦場」から改訂されたものである。
 この1996年の改訂をうけて、「近代遺跡調査実施要綱」(1996年7月16日、文化財保護部長決済)が出されたが、その「対象とする時期は、幕末・開国頃から第二次世界大戦終結頃までとする」。また、「分野」としては、@鉱山、Aエネルギー関係(鉱業を除く)、からJその他までがあげられている。
 この調査の方法としては、「所在調査」が「11分野のうち3〜4分野ずつ平成8(1996)年度から3年間で行なう」「詳細調査」が、「平成9(1997)年度以降、同15(2003)年度までの間に、所在調査の終了した分野のうち2〜3分野ずつ年次計画により行なう」とされている。
 さらに「近代遺跡の調査票提出について(依頼)」(文化庁文化財保護部記念物課長 惣脇宏 → 各都道府県教育委員会文化財主管課長、10保記30号、1998年4月24日)では、「平成10(1998)年度は所在調査の第3年度目として、H政治、I文化、Jその他の三分野について調査を行なう‥‥」とされ、具体的に兵庫県では、「平成10(1998)年度近代遺跡の所在場所調査の実施について(照会)」(1998年7月30日、兵庫県教育長 → 各市町村教育長、教社文第1324号)が出されている。
 以上のように流れを整理したうえで、兵庫県下および全国の事例について、討論をおこなった。

【今後の研究会の予定】
8月はお休みです。9月17日(日)、田慶江(民族)、藤井幸之助(在日)

月報の巻頭エッセー
9月号(佐野通夫)、10月号(水野直樹)、11月号(坂本悠一)、12月号(李景a)、2001年1月号(出水薫)、 ※ 前月の20日までに原稿を飛田までお寄せ下さい。

編集後記
☆梅雨のうっとうしい日が続いています。いかがお過ごしでしょうか。冷遇されてきた我が団地の花壇のかぼちゃは、この梅雨で元気をとりもどし、隣の花壇を侵略せんとしています。大収穫がのぞめるかも‥‥。
☆亡くなられた金英達さんの偲ぶ会(7月23日(日)午後3時、神戸学生青年センター)は先号でお知らせしました。ご参加をよろしくお願いします。金英達さんの資料は、金慶海さんと伊地知さんが整理をしてくださっていますが、基本的に青丘文庫に移されます。またごらんください。

(飛田雄一 rokko@po.hyogo-iic.ne.jp)

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