青丘文庫月報・148号・2000月4月5日

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青丘文庫研究会のご案内

第222回 在日朝鮮人運動史研究会会
4月9日(日)午後1時〜3時
報告者 浅田 朋子
テーマ「 京都・向上館からみた在日朝鮮人社会 」 

第186回 朝鮮民族運動史研究会
4月9日(日)午後3時〜5時
報告者 広岡浄進
テーマ「満洲事変と間島
−朝鮮軍の間島併合論をてがかりに−」

※会場はいずれも青丘文庫

巻頭エッセイ

20年後の<春の日>に 藤井たけし

先日、<春の日>という演劇を見た。イム・チョル(績旦酔)の同名の小説を原作者自身も加わって舞台化したものだが、その名からも推察できるように光州事件を扱ったものだ。

原作は光州を舞台に西暦1980年5月17日から26日までの十日間を描いた全5巻の長編小説で、複数の登場人物と複数の舞台を同時並行的に描くことで立体感ある叙述に成功している。しかし舞台はそれをわずか3時間弱の時間に収めているため、あらすじだけを見せられているような感がなくはなかった。とはいえ、光州事件の具体的な過程を国立中央劇場で一般の観客に見せることができるということ一つを取っても大きな意味があるだろう。もちろん今や光州事件に関する本や資料集も多くあり関心のある人にしてみれば今更のような内容ではあったろうが、これが韓国社会の変化を示しているものであることは確かだ。

内容的にとりわけ考えさせられたのは、国軍に包囲されるなかでいわば「死へと向かう共同体」が作られていく過程だ。昨年出版されたチェ・ジョンウン(置舛錘)の『5月の社会科学』という、言説分析を通して光州事件に新たな光を投げかけた画期的な本でも「絶対共同体」という概念を用いて論じられていたが、空挺部隊の圧倒的な暴力を前に「共に死のう」というスローガンが現れ、そして実際に多くの人が武装解除を拒否し死へと向かって行ったのである。そしてさらに注意すべきは(少なくとも舞台上では)最後の抗戦へと進むことができたのは男性のみだったという点だ。女性はその意志に関わらず、最後の抗戦から排除された。ここに「絶対共同体」の持つ男性的均質性(homosociality)を読み取ることは極めてたやすいだろう。

民主化の進展は、当然その過程をも批判の対象とせずにはおかない。「5・18」といえば軍部独裁に文字どおり命を懸けて抵抗した、民主化運動の<聖域>にも等しい存在だったわけだが、「民主対独裁」という構図を離れて観察することのできる状況が今、生まれつつあるのだろう。そしてそれは同時に光州事件の犠牲者を一方的に聖化し彼岸の存在へと追いやってしまうことなく、その後の20年間を捉えかえすことの重要性を示唆するものでもある(ほぼ同時期に公開されていた映画<はっか飴>も光州事件によって人生を踏み誤った一人の人物を描いていた)。

包囲下で発せられた「我々は死んでいっているのに、ソウル!ソウルは何をしているんだ!釜山、仁川はなぜこんなにも静まりかえっているんだ!」という叫びは、同時に東京は、大阪は、そして小学生だったわたしが暮らしていた三重の片田舎は何をしていたのかを問うている。

今この叫びにいかに応えることができるのか。これは20年という時間を飛び越えてしまうのでなく、しかし20年前の春の日と現在とをつなげる作業とならなければならないだろう。

185回 朝鮮民族運動史研究会(2月13日)

「大韓民国初期反共体制の成立と麗順事件」藤井たけし(省略)

 

186回 朝鮮民族運動史研究会(3月12日)

李承晩の思想と行動

〜対日・対米認識の一断面を中心に〜   李景ミン

 周知のように、李承晩は強烈な反共・反日主義者、そして親米主義者として知られるが、それはいつからであり、その理由は那辺にあるだろうか。李承晩の思想の形成過程を知る上で重要な彼の著書・『独立精神』から、何かの手がかりは得られないだろうか?

 『独立精神』は、李承晩が29歳のとき、牢屋にいてろくに参考文献も得られない劣悪な状況の中で書かれたものである。李承晩によればその執筆動機は、1904年2月、日露戦争の勃発を目の当たりにして大韓帝国の先行きが一層心配であり、鬱憤を堪えられずに、筆を執ったという。李承晩は政治犯として獄中にいながらも、宣教師らの好意で多数の書物を読み、外国の新聞などにも目を通して戦争の展開をかなり詳しく掴んでいたようである。

 従来、李承晩は、新聞にコラムを書いたり、韓英辞書のカードを作ったりして時間を費やしていたが、「嘆かわしい」朝鮮の支配層の状態と迷信の蔓延する朝鮮社会とを思い、彼の考えなりをまとめてみることを決心した。だが出版を考えると悲観的であり、かつ詳細に書けない制約もあったが、できるだけ広く多くの「民衆を啓蒙する」ためにも順ハングルで表記し、また読者にして面白く感じられるように「小説風」に書いたという。李承晩は、学問のある一部の支配層に対しては批判的な感情をもっていたようである。

 本の内容は、民衆の覚醒が如何に大事かを繰り返し述べているが、自由権利の範囲、法治社会の効験、アメリカの独立、フランス革命、アジアの国際情勢などについて具体的に50以上の項目を説明している。独立、民権、共和主義、憲法、専制など当時はいずれもタブー視されていたテーマを取り上げており、極めて危険な書物でもあった。

 ところで李承晩は、日本については積極的に西洋の文明を受け入れて開化・発展していると好意的に見ているが、中国は「中華思想」で凝り固まっている、「無道で外国人に対して残酷なことをする」ので、列強の間では中国の領土を分割して国権を没収しようとの議論さえあったと批判的である。李承晩は中国人は外面は立派であっても小心者で忠誠心がないと酷評している反面、日本人に対しては例えば「腹切り」を取り上げて、それは誉められない行動だが、他人に負けず嫌いな性格は見習うべきだと指摘する。李承晩は近代化を成し遂げている日本を評価し、黒船の到来で西洋の進んだ文明を悟り、留学生を派遣して西洋の制度を学んでいると明治維新を極めて肯定的に捉えている。「日本はすべてが変わっているのだ!」と指摘し、朝鮮に開国を迫る日本を理解して、「無知な隣国を極力開化」させ、協力して西洋列強の侵略から保全せんとしたことに「朝鮮の臣民は感謝すべきこと」ではないか。また日朝修好条規に言及しては、「朝鮮が独立権利を初めて回復したことであり、めでたいこと」であるにもかかわらず、無知蒙昧な朝鮮側は「独立の尊さを知らず、中国を裏切ることは道理に反する」と対応したと支配層の時代遅れの感覚を嘆いている。

 しかし李承晩は、その後日本は変わったと指摘し、いずれ朝鮮が日本の植民地となることを予見する。日本は、日清、日露戦争を経て朝鮮において在留日本人の経済的要求が高揚していくに従って、朝鮮の内政に対する干渉も強くなっていくにもかかわらず、朝鮮政府は何ら有効な措置を採ろうとしないとその無関心な対応を糾弾している。

 李承晩は、朝鮮人の国民性について触れて、「中国人のふくよかなところと日本人の強悪なところ」をそれぞれ均等にもっている。頑固で質朴な性格もあり、聡明で敏捷なところがあるのでしかるべき教育を与え、良い方向へと導けば、この東洋において富強な国造りが十分可能だと述べている。確かに朝鮮民衆が世界の動向に「無知」ではあるが、民衆に対しての期待は強く、たとえどんな状況にあっても「民衆が悟っていれば」、世界の公論の助けを得られようと結んでいる。

 最後に李承晩は、とくに<独立主義>について触れて、独立とは何か、その国際関係、さらに今日の朝鮮の独立はどんな状況にあるのか、今後の展望について述べている。そして、民衆の熟知すべき課題として「世界との交流」の大切さを強調して通商、人の交流が互いに利益になるのだ、外交に精通すべきだと主張している。

 この本の原稿は李承晩の獄中仲間である朴容万によって海外に持ち出されて、1910年2月、ロサンゼルスで初めて出版され、1917年にはハワイでも出版され朝鮮人社会の間で広く読まれた。解放後韓国でも数回版を重ねているが、この本に関する研究批評は殆ど見当たらない。それは、金九の著書である『白凡日誌』とは対照的でもある。

第222回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会(2月13日)

「国立公文書館所蔵:内務省警保局による朝鮮人関係資料」 福井 譲(省略)

 <集会案内>
神戸学生青年センター・朝鮮史セミナー
/6月17日(土)午後2〜5時
「朝鮮戦争50年・記念講演会」/会場/神戸学生青年センター
講演@ 「朝鮮戦争をどうみるか」(仮題)和田 春樹 氏
講演A 「朝鮮戦争の時代の在日朝鮮人運動」李 秉萬 氏
参加費/1000円・主催/神戸学生青年センター (078)851-2760

5月の研究会
5月は14日に、宇治・大土川、発電所等のフィールドワークです。
月報の巻頭エッセー
5月号(堀内稔)、6月号(広岡浄進)、7月号(金森襄作)、9月号(佐野通夫)、10月号(休刊)、11月号(水野直樹)、12月号(坂本悠一)、2001年1月号(李景a)

 

編集後記 

青丘文庫学生センター