むくげ通信203号/2004年3月

書評@

兵庫朝鮮関係研究会編
近代の朝鮮と兵庫

 兵庫朝鮮関係研究会は1983年11月に在日朝鮮人によって作られたグループで、「在日朝鮮人の歴史を調査研究し、それを記録する」ことを目的としている。むくげの会とも共同の仕事を何回もしてきた。阪神教育闘争、神戸電鉄、神戸港の調査等に取り組んだし、『兵庫のなかの朝鮮−歩いて知る朝鮮と日本の歴史』(明石書店)の出版にも兵庫在日外国人教育研究協議会と3者で取り組んだ。

 兵朝研はこれまで『兵庫と朝鮮人』『鉱山と朝鮮人強制連行』『地下工場と朝鮮人強制連行』『在日朝鮮人九十年の歴史−続・兵庫と朝鮮人』を出版してきた。今回の出版は結成20周年を記念するもので、1880年代から現代までをテーマにした以下の論文が収録されている。

 朝鮮経済侵略一番乗り―政商・大倉喜八郎と朝鮮(梁相鎮)/朝鮮人最初の写真技師―池運永と神戸の写真館(尹達世)/『大韓毎日申報』創刊者・ベセルと神戸―朝鮮植民地化に抵抗した言論人(尹達世)/「日韓」草の根友好の証―親和女子高等学校と朝鮮(村上義徳)/余部の墓地にあった曹鉄根の墓―山陰線敷設工事朝鮮人工夫の足跡(徐根植)/もう一つの略奪鉄道と奴隷航路―「南朝鮮鉄道」と「関麗連絡船」(梁相鎮)/広野ゴルフ場と朝鮮人)―神戸財界人と朝鮮人労働者(高東元)/阪神大水害と朝鮮人―民族をこえた六十五年前のボランティア活動(高祐二)/播磨造船所に徴用されたハラボジたち―二〇〇一年、済州島における聞き取り調査から(門永秀次)/朝鮮北半部からの強制連行―知られていない事実(梁相鎮)/客地無主孤魂となった朝鮮人―空襲の犠牲になった朝鮮人(梁相鎮)/「朝鮮人労働者の像」を建てる―日本と朝鮮との友好の誓い(金慶海)/朝鮮人の名前が刻まれた石碑―一九四五年以前に建立された石碑から(徐根植)/近世の日朝国交交渉に学ぶもの―拉致問題を想う(尹達世)

 会員以外の方も執筆に加わっており、村上義徳さんは親和女子高校の校長で、そこにかつて在籍した朴泳孝の娘のことを、門永秀次さんは、神戸・南京をむすぶ会のメンバーで金慶海さん、伊地知紀子さんらと参加した済州島での調査(播磨造船所の強制連行)の記録をまとめている。

 それぞれに労作であるが、労作中の労作と私が勝手に選んだもの3本を特に紹介したい。

 高東元「広野ゴルフ場と朝鮮人)―神戸財界人と朝鮮人労働者」は、以前の本でも取り上げられている広野ゴルフ場がテーマだ。ここで高が着目したのは発起人たちである。その中でも設立常務委員となった鋳谷正輔(川崎重工社長、広野ゴルフ場社長)、南郷三郎(日本綿花社長)、岡崎忠雄(神戸岡崎銀行社長、同和火災社長)、小曽根喜一郎(阪神電鉄社長、播磨造船社長)、高畑誠一(日商岩井創業者)の5名ついて記述している。それは単に広野ゴルフ場との関係の記述だけではなく彼らが「神戸の支配者」であったこと、朝鮮を舞台としてその経済力を蓄えたことを説得的に述べている。

 高祐二「阪神大水害と朝鮮人―民族をこえた六十五年前のボランティア活動」は、このテーマでの初めての論文だ。1938年7月に発生した阪神大水害は神戸の人にはよく知られた事実であり、あちこちに記念碑も建てられている。六甲山ハイキングの途中の住吉川には大水害でここまで水位があがりましたという記念碑もある。当時、もともとの生田川であった三宮を濁流が流れた。大水害当時の朝鮮人について新聞記事や『湊区水害誌』などを用いて、被害状況、朝鮮人による救援活動について記述している。私は小学校まで神戸市兵庫区都由乃町にその後高校の初めまで生田区(現中央区)再度筋町に育ったが、いずれも山沿いの阪神大水害で被害の大きかった地域だ。当時の様子をイメージ豊かに理解させてくれる論文であり、また私が子どもの頃にまだ残っていた川筋の豚小屋が朝鮮人のものだったことも知ることができた。

 金慶海「『朝鮮人労働者の像』を建てる―日本と朝鮮との友好の誓い」は、神戸電鉄関連のものだが、1990年代に取り組まれた運動に焦点をあてている。私自身が事務局長を務めた運動で、読んでいて恥ずかしいことあるいはここまで書かなくてもというところもあるが、敷設工事と朝鮮人について記録化することとともに現在の運動を記録化することも大切なことだと思った。

 他に昨年の大発見の浜坂八幡神社「招魂碑」に刻まれた朝鮮人の墓のことを記述した徐根植「余部の墓地にあった曹鉄根の墓―山陰線敷設工事朝鮮人工夫の足跡」も注目されなければならない。

 あとがきで代表の徐根植さんも書かれているように、本書は統一テーマでまとめられたものではない。しかし、それぞれの論文が自身の問題意識に惹きつけて事実を調べ記録化していることを大きな貢献だと評価したい。兵朝研とむくげの会はこれからの10年20年?と、更にお互いを刺激しながら進んでいきたいと思う。

【(明石書店、2003.112415円、四六判、240頁)】(飛田雄一)

むくげの会